第15話
「メテリオルデストローション」
湖の修行から戻ったシンリーは、これまでとは違う存在感を漂わせていた。彼女の周囲には目に見えないが、確かに強大な力が宿っているのが感じられる。それは彼女が新たに覚えた魔法――メテリオルデストローション――によるものだった。
全てを焼き尽くす隕石の魔法
その魔法の説明を聞いたとき、アーサーたちは驚きを隠せなかった。シンリーが語った内容は次の通りだった。
「メテリオルデストローションは、この世界で最も強大な魔法よ。一度放てば、敵どころか戦場そのものを焼き尽くしてしまう隕石を召喚するの。けれど……この魔法には一つ大きな弱点があるわ。」
「弱点?」アルトが鋭い声で尋ねた。
「詠唱に66秒もかかるの。しかも、その間は完全に無防備になるわ。」シンリーは淡々と答える。
「66秒!?そんなに長い間お前を守るなんて……!」アルトは困惑し、額に手を当てた。
「確かに強力だが、使うにはリスクが大きすぎる。」フェルミアールが冷静に分析する。
「でも、その魔法が必要な場面が来るかもしれない。」アーサーが落ち着いた声で言った。「どうすればいいか、一緒に考えよう。」
作戦会議の始まり
その夜、焚き火を囲んで一行は話し合いを始めた。
「66秒って、俺たち全員が本気で守りに入っても長すぎる。」アルトがまず切り出した。
「私の矢で敵を牽制することはできるが、全方位をカバーするのは不可能だ。」フェルミアールが静かに続けた。
「そもそも、この魔法を使うべき状況を見極める必要がある。」アーサーが冷静に提案する。「無駄に使えば、俺たちも巻き込まれる危険がある。」
「ええ、使うべきは本当に最後の手段よ。」シンリーが小さく頷いた。
しかし、具体的な方法はなかなか浮かばない。焚き火のパチパチという音だけが、沈黙の中に響いた。
個性が見える瞬間
「それにしても、お前ってよくそんなぶっ飛んだ魔法を覚える気になったよな。」アルトが不意に笑いながら言った。「普通はそんな危険な魔法、覚えたいと思うか?」
「それが私の役割だからよ。」シンリーは淡々と答える。「私は魔法使いとして、みんなにとっての切り札になるべきだと思ったの。」
「切り札ね……でも、そんなに一人で背負い込むなよ。」アルトが少し気まずそうに言った。
「アルトの言う通りだ。」アーサーが続ける。「シンリー、お前は一人で戦うわけじゃない。俺たちはチームなんだ。」
「それに……お前が詠唱している間、俺は戦う理由ができて嬉しいくらいだ。」アルトが笑って肩をすくめた。「守るってのは、悪くない役割だな。」
「それに、私の矢も無駄にはしない。」フェルミアールが静かに微笑む。「この66秒をどう使うかが、私たちの課題だ。」
絆の深まり
「ありがとう……みんな。」シンリーは少し戸惑いながらも、柔らかい笑みを浮かべた。「私が覚えた魔法が、こんなに重い責任になるなんて考えていなかったわ。でも、あなたたちがいてくれるなら……きっと何とかなる気がする。」
「その通りだ。」アーサーが力強く言った。「この魔法は確かにリスクがある。でも、お前がその力を信じているなら、俺たちも信じるさ。」
「まあ、俺たちが一緒にいれば何とかなるだろう。」アルトが笑って焚き火に枝を投げ入れる。「あのドラゴンだって倒せたんだ。今さら恐れることなんてない。」
「これまでの旅で、お前がどれだけ支えてくれたかを考えれば、このくらいの負担、安いものだ。」フェルミアールが静かに言う。
次への旅路
夜が明ける頃、アーサーたちは新たな目的地に向けて旅を再開した。
メテリオルデストローションという強大な魔法と、それを支える仲間たちとの絆。彼らはまだ答えを見つけられてはいなかったが、確かなことが一つあった。
それは――どんな困難も、一緒に乗り越えられるという信頼。
こうして一行は、さらなる冒険へと歩みを進めた。シンリーの新たな力と、それを支える仲間たちの絆を胸に抱いて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます