第7話

「孤高の剣士」


アルトは、小さな村で生まれ育った。そこは人里離れた辺境の地。農地は痩せ細り、日々の暮らしは厳しい。だが、村人たちは慎ましくも穏やかに暮らしていた。アルトの父は鍛冶屋で、村のために剣や農具を作り続ける職人だった。毎日煤で汚れた顔で笑う父の姿を、アルトは心から尊敬していた。


「この村は弱い。だからこそ、強さが必要だ。」


幼いアルトは、父のそんな言葉をよく聞いて育った。父は村を守るために鍛冶だけでなく、簡単な剣術も嗜んでいた。村を襲う盗賊や獣から身を守るため、父は剣を振るうだけでなく、その使い方をアルトに教えた。


「この剣はただ斬るためのものじゃない。守るためのものだ。」


父の教えに従い、アルトは必死に剣を学んだ。村人たちの期待も集まり、アルトは幼いながらに「自分が村を守る存在だ」という意識を抱くようになった。彼はいつしか「この村を必ず守る」という責任感を自分の中に刻みつけていた。


転機


だが、アルトが13歳のとき、その平穏は一瞬で奪われた。


夜明け前、盗賊団が村を襲ったのだ。数十人の武装した盗賊が畑を荒らし、家を燃やし、略奪を始めた。アルトは父から託された剣を握りしめ、命がけで戦った。彼の剣技は幼いながらも見事なもので、何人もの盗賊を斬り倒した。


しかし、それでも人数差は圧倒的だった。村人たちは次々と命を落とし、父もまた盗賊の刃に倒れた。母を守るために駆け寄ったときには、彼女もすでに動かなくなっていた。アルトは必死に剣を振るい、全ての力を使い果たして盗賊団を撃退したものの、気づけば村は壊滅していた。


「俺が弱かったからだ……」


剣を握りしめたアルトは、その場に膝をつき、涙を流した。自分がもっと強ければ、村を守れた。家族も失わずに済んだはずだ――そう信じたアルトは、父の形見の剣を携え、旅に出ることを決意した。


孤独な旅路


村を失ったアルトは、それ以来一人で剣を磨き続けた。街道を歩き、盗賊団を討ち、魔物を倒しながら名声を積み重ねた。しかし彼は、自分の力を周囲に誇ることは決してしなかった。ただ、「自分がもっと強くなる」ことだけを目的にしていた。


「守るためには、他人を頼るな。」


彼の中にある信念は次第に変わっていった。村を守れなかった自分の無力さが、アルトに「孤独に戦う」という考えを植え付けた。誰かと絆を結ぶことが、かえって弱さを生む――そう信じるようになっていた。


アーサーたちとの出会い


それから数年後、王国の命により、アルトはアーサーという若い勇者のパーティに加わることになる。アーサーは戦闘力こそ平凡だが、仲間を支えることに長けた青年だった。アルトは初対面から冷たく言い放った。


「俺一人で十分だ。お前たちが足手まといになるだけだ。」


アーサーはその言葉に怒ることなく、微笑みながら答えた。「でも、俺は君の剣がもっと輝くように支えるのが役目だからさ。」


その言葉を聞いても、アルトはアーサーたちを信用しようとはしなかった。だが、旅を続ける中で、彼の心に少しずつ変化が訪れる。


過去と向き合う瞬間


ある日、一行は壊滅した村の跡地にたどり着く。その荒れ果てた光景を見たとき、アルトは立ち尽くした。その村は、かつてアルトが生まれ育った故郷だった。崩れた家々、錆びついた農具――その全てが、彼に痛みを蘇らせた。


アーサーがそっと問いかける。「ここは……君の村か?」


アルトは一瞬目を伏せたが、やがて口を開いた。「俺が守れなかった場所だ。俺が弱かったから、全てが消えた……」


アーサーはしばらく彼を見つめ、静かに言った。「でも、それを抱えて君は今も戦い続けてる。守れなかったからこそ、守りたいんだろ?」


その言葉に、アルトは黙り込んだ。いつも自分の中で押し殺してきた感情が、アーサーの言葉によってわずかに揺さぶられた。


新たな決意


その夜、焚火を囲んでアルトは珍しく口を開いた。


「……俺は、もう誰かを失いたくないだけだ。だから俺は強くなる。でも、もしお前たちが本気で戦うつもりなら……お前たちを守る剣になってやる。」


その言葉にアーサーは笑い、シンリーとフェルミアールもそれぞれ頷いた。アルトはこのとき初めて、自分の力を誰かと分かち合う意味を理解し始めた。


彼の旅は、孤独を抱えたままでは続けられない。仲間とともに進むことで、かつて守れなかったものに報いるための新たな力を得る――アルトはそう決意し、剣を再び握りしめたのだった。

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