第6話
「幽霊退治とシンリーの恋」
アーサーたちは旅の途中、ある村に立ち寄った。その村は山間の静かな場所だったが、近頃「幽霊」が出没するという噂で悩まされていた。村人たちは家畜が突然死んだり、夜中に誰もいない場所からすすり泣きが聞こえるなどの怪奇現象に怯え、助けを求めていた。
村の長老はアーサーたちに幽霊退治を依頼する。アルトは「幽霊などただの噂だろう」と興味を示さず、フェルミアールも「人間の無知が生む妄想だ」と冷たく言う。しかし、シンリーは「魔力の乱れを感じる」と珍しく積極的だった。幽霊の正体を探るため、彼らはその夜、幽霊が現れるという村外れの古い教会へと向かうことにした。
村の神父との出会い
教会で出迎えたのは、若き神父ルイだった。ルイは端正な顔立ちと穏やかな声を持つ青年で、村人たちのために幽霊問題を解決しようと尽力していた。しかし魔法や戦闘の力を持たない彼は、自力でどうすることもできず、祈ることしかできない状況だった。
「皆さんが来てくださって本当に助かります」と頭を下げるルイに、シンリーはいつもとは違う表情を見せた。普段は冷静で無口な彼女が、少し頬を赤らめてルイを見つめている。それに気づいたアーサーは「あれ、珍しいな」と内心驚く。
ルイは丁寧に幽霊騒動の状況を説明し、アーサーたちは調査を開始することに。シンリーはルイが持つ村の記録や教会の資料を読みながら、彼と静かに会話を交わしていた。その様子を見たアルトは「珍しい光景だな」と小声で呟き、フェルミアールは「人間の感情など理解不能だ」と呆れたように言う。
幽霊の正体
調査の結果、幽霊の正体は村の地下水路に巣食う「魔力を吸収する魔物」だと判明した。その魔物は周囲の感情を反射させる特性を持ち、人々の恐怖や悲しみを映し出して幽霊のように見えていたのだった。
「これなら私が魔法で浄化できる」とシンリーは自信を見せたが、そのためには強力な魔法を発動させるための準備が必要だった。アーサーたちは魔物を引きつける役割を担い、シンリーが魔法陣を完成させる間、魔物と戦うことになる。
戦闘中、魔物はルイにも影響を及ぼし、彼の過去の悲しみを幻影として見せ始めた。かつて家族を亡くしたルイはその幻影に動揺し、膝をついてしまう。シンリーは彼を守るために立ち上がり、「あなたは守られる側じゃない。村を守る存在なんです」と励ます。ルイはその言葉に奮い立ち、恐怖を振り払って再び祈りを捧げ始めた。
最終的に、シンリーが発動させた強力な浄化魔法が魔物を打ち倒し、村は平穏を取り戻す。村人たちはアーサーたちに感謝し、ルイも深く頭を下げた。「皆さんのおかげで村が救われました。特にシンリーさん、あなたの力には感謝してもしきれません。」
シンリーの恋心と失恋
その夜、村の酒場で祝宴が開かれ、シンリーは一人でそっと教会を訪れた。そこにはルイが静かに祈っていた。シンリーは迷いながらも「あなたはすごい人だと思う」と素直な気持ちを伝えた。冷静で無表情だった彼女が、ほんの少し感情をにじませたその瞬間は、自分自身でも驚くほどの勇気が必要だった。
しかし、ルイは穏やかに微笑みながら答えた。「ありがとうございます。でも、私にはこの村と教会を守ることが使命です。それ以外のことに時間を割く余裕はありません。」
その言葉にシンリーは一瞬沈黙し、「そうですね」と小さく微笑んで引き下がった。胸の中に広がる切なさを隠しながら、シンリーは教会を後にした。
仲間たちの温かさ
祝宴の席で、シンリーは何事もなかったようにいつもの無表情を保っていたが、アーサーはその様子に気づいていた。「シンリー、大丈夫?」と声をかけると、彼女は一瞬目を伏せ、「何のこと?」とだけ返した。
しかし、そのやり取りを見ていたアルトがぽつりと呟いた。「お前が動揺してるのは分かるぞ。まあ、失恋ってやつだな。」シンリーは驚き、「そんなことはない」と言い返すが、フェルミアールも「人間の恋愛というのはそう簡単にはいかないものらしいな」と意地悪そうに言った。
そんな二人に、アーサーは苦笑しつつ、「でも、シンリーが誰かに感情を向けたのは素晴らしいことだよ。それがどういう結果でも、俺たちは仲間だろ?」と言葉をかけた。
その言葉にシンリーはほんの少し微笑み、「ありがとう。でも、この話はこれで終わり」とだけ言った。彼女の心の中では、切なさとともに新たな感情が芽生えていた。それは、自分を支えてくれる仲間への信頼と感謝だった。
こうして幽霊退治を通じて、4人の絆はさらに深まり、彼らはまた次の冒険へと歩き出したのだった。
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