第5話

「酒場で芽生える絆」


長旅の疲れを癒すため、アーサーたち4人は小さな村にある酒場を訪れることにした。森を抜け、迷宮を攻略し、数々の危機を乗り越えたばかりだったが、パーティ内の雰囲気はまだぎこちなかった。特に、孤高の剣士アルト、無口な天才魔法使いシンリー、偏見を抱えたエルフのフェルミアールの間には、互いに壁があるように感じられた。


酒場での序盤の緊張感


酒場は陽気な村人たちで賑わい、楽器の音色や笑い声が響いていた。しかし、テーブルに座ったアーサーたちの空気は、場の賑やかさに全くなじまない。アルトは無言で酒を飲み、フェルミアールは腕を組んで一切手をつけない。シンリーも静かに本を取り出し、周囲に興味を示さない。


アーサーはその様子に苦笑しながら、「せっかく酒場に来たんだから、もっと楽しもうよ」と声をかけるが、反応は薄い。アルトは「俺に楽しみ方を教える気か?」と笑いもせずに返し、フェルミアールは「エルフにはこんな人間の飲み物は必要ない」と鼻で笑う。シンリーに至っては、「私は飲める体質ではない」と淡々と言うだけだった。


「これは困ったな……」と頭を掻くアーサーだったが、ふとしたきっかけで状況が一変する。


飲み比べで火花を散らすアルトとフェルミアール


酒場の酔っ払いがアルトのたくましい体格に目を留め、「あんた、剣士だろ? 飲みっぷりも強いんだろうな!」と声をかけてきた。アルトはそれに応じ、酒樽を一気に飲み干してみせる。その姿に村人たちは歓声を上げ、「次はこのエルフもやるべきだ!」とフェルミアールに目を向けた。


フェルミアールは「エルフの身体は人間と違い、酒など飲まなくても強靭だ」と冷たく言うが、村人たちの挑発に乗せられる形で渋々杯を手に取った。そして、意地でも負けまいとアルトに対抗し始める。


「剣士の体力がそんなに誇らしいのか? 真の力は精神と精密さにある。」

「そう言う割には飲むじゃないか。その気になったんだな?」


二人は次第に飲み比べのような形になり、周囲の村人たちはその光景を大いに楽しんでいた。アーサーは呆れつつも、「これで少しは打ち解けてくれるならいいか」と見守る。


シンリーとフェルミアールの小競り合い


一方で、シンリーはその光景を静かに見つめていたが、フェルミアールが酒に酔い始めたころ、ぽつりと冷静な一言を放つ。「エルフの精神が強靭と言いながら、飲み比べで顔を赤くするのはどうなの?」


フェルミアールは酔った勢いで不機嫌になり、「それが何だというのだ。人間の魔法使いが口を挟むことではない」と言い返す。しかしシンリーは表情を崩さず、「なら、あなたがもっと強靭だと証明すればいい」と淡々と挑発。周囲の村人たちは、また別の勝負が始まるかと騒ぎ出した。


アーサーは二人のやり取りに割って入り、「二人とも、そんな無駄な争いはやめよう。ここは酒場なんだし、もっと楽しく過ごすべきだ」と言ったが、フェルミアールは「人間の価値観を押し付けるな」と少し険悪な雰囲気に。


アーサーの提案:チームゲーム


その空気を見て、アーサーは思いついた。「じゃあ、こうしよう。ここでゲームをしないか?」と提案。村人たちから借りたサイコロを使い、「勝った人が好きな質問を他の誰かにできる」というルールを作った。


最初は渋々ながらも、アルト、シンリー、フェルミアールはアーサーの提案に乗り、ゲームを始める。アルトが勝つと、「お前ら、本気で戦うとき、俺の剣を信用してるか?」と真剣な顔で尋ねた。シンリーは短く「信じてる」と答え、フェルミアールも「信じていないわけではない」と少し照れくさそうに言った。


次にシンリーが勝つと、「あなたたちはなぜ旅を続けるの?」と二人に尋ねる。フェルミアールは「エルフの誇りのため」と言い、アルトは「俺が戦う理由を探しているだけだ」と答えた。その言葉に、シンリーは少しだけ微笑み、「その理由が見つかるといいわね」と静かに言った。


最後にフェルミアールが勝つと、彼はアーサーに「なぜお前はこんな面倒な連中を纏めようとする?」と尋ねた。アーサーは笑いながら答えた。「面倒だからこそ、やりがいがあるんだよ。それに、君たちは最高の仲間だと思ってるからさ。」


芽生える絆


ゲームが進むにつれて、最初のぎこちなさは薄れ、笑い声や軽口が自然と生まれ始めた。アルトはフェルミアールに酒を勧め、シンリーはフェルミアールに「エルフの魔力理論を少し聞かせて」と興味を示し、アーサーはそんな光景を見て満足げに笑っていた。


夜が更け、酒場を出るころには、4人の間には以前よりも確かな絆が生まれていた。フェルミアールがぽつりと呟いた。「少しだけ、お前たちを信用してもいいかもしれない。」その言葉に、アーサーは笑って答えた。「その少しがあるだけで十分さ。」


こうして、剣士、魔法使い、エルフ、そして支援者の勇者は、初めて真の仲間として一歩を踏み出したのだった。

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