第11話

無事に目的を達成した俺たちは毛玉の親を探しながら森の中を下っていくことにした。


ラズ曰く帰りは緩やかな傾斜を下るだけらしく、危ない道を歩くことは無いようだ。


「なかなか動物と出逢いませんね」


「クロード、動物手懐けてただろ。何とかして呼び出せ」


「いやいや〜。アンバー、それは無茶振り〜」

「あなたならいけますよ。呼び出してください」


「えっ、ちょ、ラズまで何言ってんのさ!」

見つからないことにヤキモキしているのかラズも俺の無茶振りに乗った。


「ミュー」


「わかったよぉ〜。とりあえず呼んでみる」

毛玉の力無い声を聞きクロードは決意したらしい。


「指笛で呼んでみては?」

怪訝な顔をしながらピューっと吹くクロード。


特に動物が反応することは無かった。


「歌を歌ってみろ」


「なんでさ!」

歌は抵抗があるのかクロードは嫌そうな顔をして拒否する。


「いいから歌ってみろ」

「もー!!」


クロードの少し高い歌声が森の中に溶け込むように響く。


「歌ったよ!」

「来ないな」

小鳥の一羽も飛んでこない。


「いや、逆になんで歌で動物が集まってくると思ったのさ!」


「歌で動物が寄ってくるなんて定番だろ?」

「いや、だからなんで?」

どうやらこの世界ではお姫様の定義がわからないらしい。


昨日、クロードに寄ってきていた動物に一匹も出会うことがなかった。





「そろそろ日が暮れそうですね」

ラズは空を見上げて呟く。


結局、毛玉の親は見つからなかった。

こいつも俺の側から離れない。

森に帰れと地面に下ろしても短い足で着いてくるし。


木の幹に寄り掛かりながら座っている俺の横で、寝そべりながらくりくりの瞳をこっち向ける毛玉に話掛ける。


「お前、俺に着いてくるか?」

「ミュー」

尻尾をふりふりと揺らしながらじっと俺の顔を見つめる毛玉。


「……。名前、付けてやらないとな」


小さな体を両手で持ち上げて瞳を覗き込む。


深い青色にキラキラと金色が散らばった星空のような瞳をしている。


「お前の名前はシエルエトゥアール」


「ミャゥ」


「名前の意味は『星降る夜』お前の瞳は星が煌めいている夜空みたいで綺麗だから」


「ミャー!」

「気に入ったのか?」

小さな尻尾が左右に揺れている。


「そうか」

小さな頭を撫でる。



「良かったですね」

「君は今日からシエルか!素敵な名前をもらえて良かったねぇ」


俺たちのやり取りを近くで見ていたラズとクロードもシエルの頭をポンっと優しく撫でた。


「では、帰りますか」

「ああ、帰ろう」

「うん!帰ろっか〜!」

「ミュー!」



とりあえず家に着いたらシエルはすぐお風呂だな。


薄暗い森の中を進みやっと森の出口を出ると、迎えの馬車が三台並んで待ち構えていた。


今朝、魔法で各家に伝令を送っていたので迎えが来ていたみたいだ。


「やっと着いた」

「本当だねぇ!やっと帰れるねー!」


「ええ、二日で帰って来れたので明日はお休みですね」


宝探しゲームは三日予定していたから明日は全員休みなのか。


「楽しかったよ。ありがとうな」

「えっ!アンバーがデレた」


「デレてねぇよ」

「私も楽しかったです。また三人で何処か出掛けましょう」


「うん!また三人で遊ぼうねぇ〜」


二人と別れてシエルと馬車に乗り込む。


ゆっくりと動く馬車の中シエルを膝の上に乗せて窓の外を眺める。


「シエル、もし森に帰りたくなったら3回まわって一鳴きが合図だ」


「ミャーン」

「わかったな」


シエルの前足を掴むとプニっとした肉球の感触につい肉球をぷにぷにしてしまう。


肉球を触られても嫌がらないシエルについ満足するまで触り続けてしまった。


俺は猫派なのだ。


玄関を開けてくれた家令に礼を伝え、家に入ると安堵した表情の母と満面の笑みの父に出迎えられた。


「おかえりなさい。アンバー、ケガはない?」


「ただいま帰りました。はい。ゲガはありません」

「おかえりー!楽しかったかい?」


「はい。とても楽しかったです」


「ところでその手に抱えている動物はどうしたのかしら?」

頬に手を当てて困った表情の母。


「拾いました」


母の表情を見るに森に帰しなさいと言われそうだ。


「そうか。一度、生き物を拾ったのなら最後まで面倒を見なければいけないよ」


「アンバー、ちゃんとお世話は出来るの?」


「はい。大丈夫です。シエルは賢いので」

「もう名付けたのか」

父は仕方ないとばかりにため息を吐きながらシエルに目を向ける。


「シエルエトゥアールと名付けました」


「まあ!素敵な名前ね!」


「父上、母上、シエルは私が責任を持って育てます。どうかお願いします」


「森から連れてきてしまったものは仕方がない。シエルエトゥアールを我が家の家族と認めよう」


「ありがとうございます」


「ミューゥ」


両親とは玄関で別れて汚れているシエルを洗うべくお風呂に向かう。


桶を用意してお湯を入れる。


ぶるぶると震えているシエルを捕まえて桶の中に入れた。


ばしゃんーーーー


シエルが暴れ回り、俺の顔と服がびしょ濡れになった。


「こら、暴れるな」


「ミューミューゥ」

「怖くない。大丈夫だから」


泡を作りシエルの体に乗せていく。白い泡がどんどん黒くなりお湯で流す作業を数回繰り返し汚れていたシエルの本当の毛色が現れた。


「お前の毛は真っ白だったのか」


「ミャーゥ」

もう勘弁してくれとばかりにシエルは耳と尻尾を垂らし哀愁漂わせながら返事をする。


「よし、綺麗になったな」

ぷるぷると震えている体をタオルで包み部屋へと戻る。


風と火の魔法を応用させて温風を作り濡れたシエルを乾かす。


泥の汚れでごわごわになっていた毛がふわふわになり、さっきまでの容貌と変わった。


「ふわふわだな」

「ミャーン」



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