第10話

朝日が昇り、結局一度も使わなかったテントを片付ける。


「さあ!クロード特製の朝ごはん作っちゃうもんねぇー!」

寝てねぇのに朝から元気だな。


クロードが朝ごはんを作ってる間に周辺に食べられる木の実があるか探しに行くか。


「ミュー!」

立ち上がった俺に着いてこようと体を起こす毛玉。


「お前はここにいろ」

「ミューミュー」


はぁー。


置いていっても勝手に着いてきそうな毛玉も一緒に連れて行くことにした。


ざくざくと葉や枝を踏み締め森の中を散策する。


「お前、食べられる木の実の場所知ってたりしないか?」

一応、森で生活している毛玉に聞いてみる。


「ミュゥー!」

俺の言ったことを理解しているのか、一鳴きして着いてこいとばかりに走り出した。


短い足を懸命に動かしてコロコロと転がるように森の中を進んで行く。


俺はのんびり毛玉の後を歩く。


木の根元にお座りしている毛玉の頭上には赤い果実が実っている。


「よくやった!」

「ミュー!」


風魔法で鎌風を起こし実だけを狙い落としていく。


「戻るぞ」

「ミュー」


持てる分の果実を腕に抱えて二人の元に戻るとクロードの料理が完成していた。


「じゃじゃ〜ん!!どう?どう?美味しそう?」


「どうって」

普通にベーコンと卵焼いただけだろ。


「ひ、酷い!頑張ったねの一言もないなんてぇ!」

「いや、焼くぐらい誰でも出来るだろ」


「焦げてないじゃん!上出来でしょ!?じゃあアンバーは料理できるの!?」


「一通りのことは大体出来る」

よくわからないが俺の返答に意気消沈したクロードを無視してスープを混ぜているラズに近づく。


「何かありました?」

「これ獲ってきた」

腕に抱えている果実を見せる。


「リプラの実ですね。とても甘くて美味しいですよ」

「そうか。こいつが案内してくれたんだ」

俺の足元にいる毛玉に目を向ける。


「さすが森に住んでいるだけあって詳しいですね」

「ミュウ」

ラズに褒められて毛玉は胸を張りピシリとした体制してその表情は得意げだ。


「その子は表情豊かですね。まるで私たちの言葉を理解しているようですし」


「多分わかっていると思うぞ」

「3回まわって一鳴きしろ」


毛玉がくるりくるりと3回まわってお座り。


「ミュー」

見た目は猫だが、仕草も人懐っこさも犬っぽい。


「本当に理解していますね。賢いです」

「クロードより賢いだろうな」


「ちょっとー!聞こえてるんだけどぉ!」

朝ごはんを並べ終えたクロードが怒りながらこちらに近づいてきた。


「ほら!温かいうちに食べようよ!」


「そうですね。スープも入れます」


昨日のスープとクロードが作った朝ごはんを食べ終わり、獲ってきた果実を毛玉の口に持っていく。


かぷりと噛みつき美味しそうに食べている。


リプラの甘い香りに誘われて一口食べてみる。一口齧ると甘い果汁がじわぁっと口いっぱいに広がる。


「美味しい」

桃の様な甘さ、りんごの様なさっぱりした後味はあっさりしている。


「リプラって甘酸っぱくて美味しいよね〜」

クロードはリプラを両頬に詰め込みリスのみたいになっている。


「アンバーは果物が好きなの?」

「まあ、好きだな」


「では、今度おすすめの果実をアンバーに教えますね」

「俺も〜!めっちゃ美味しいララムって果実があるんだけど今度持ってくる!」


「ああ、楽しみにしている」

和気藹々とリプラを食べながら、ここを発つ準備を始める。


休憩を挟みながら歩くこと数時間やっと辿り着いた。


「ここですね」

目の前には大きな洞窟、ここが目的地のようだ。


「ここにお宝があるのか〜。中身はなんだろうねぇ」


「宝は本当にあるのか?」


「ええ、今回は宝探しなので事前に用意されてます。中身は知りませんが、洞窟の中に宝箱があると思います」


「わくわくするよねぇ!早く行こうよ!」

スキップしそうな足取りで早々とクロードは洞窟に足を向ける。


洞窟に一歩足を踏み入れると中は薄暗く視界が悪い。


「足場が悪いので足元に気をつけてくださいね」

ラズの声が反響して洞窟内に響く。


「うわぁっ!」

言われた側から足を滑らしたクロードの腕を掴み身体を支える。


「アンバーありがとう!びっくりした」

「ああ。気をつけろよ」


「えへへ〜。うん、気をつけるー!」




辺りは俺たちの足音だけが響いている。


黙々と歩き進めると一目見てすぐわかる大きな宝箱がぽつんと置いてあった。


「あ!宝箱はっけーん!!」

クロードは声を弾ませて宝箱に近づいていく。


「早く開けようー!ほら!アンバーもラズもこっちおいでよ!」

俺たちを呼び寄せて宝箱に手をかけるクロード。


宝箱を開くと小さな箱が入っていた。

マトリョーシカかよ。


「ほら、アンバー!」

手に取ろうとしない俺にクロードが小さな箱を手渡してくれる。


開けて中身を見てみると透明な石がついたピアスが二つ鎮座していた。


なんだこれ?

首を傾げて透明なピアスを眺める。


「これは魔石ですね。魔力をこの石に封じ込めるとピアスの色が変化するのです」


「これって恋人同士が付けるGPS付き通信用ピアスじゃないのー?」


「そうですね。このピアスは恋人専用で周りの規制にもなります。相手が何処にいてもわかるので、恋人の行動監視が最適なピアスとも言えます」


「ちょっと!ラズ!言い方!」


「わかりやすく説明すると浮気防止のピアスですね」


「違うからね!このピアスは一途な想いを証明するピアスだから!これを渡された相手は君だけを愛するってプロポーズされたも同然なんだよ!」


「へぇー」

こんなに熱心に説明するクロードは純愛派なのだろう。クロードの勢いに軽く引きながら、説明を聞いて納得する。


自分の魔力を纏わせられる魔石だから透明なのか。


「これって結構高価な品物だよ!ラッキー!」


「でもこれって恋人がいないと使い途がないので私には不要ですね」


「確かにな」


「え、二人とも冷めすぎじゃない?これから恋人出来るかもしれないじゃん。その人に渡しなよー」


「私、興味ないので」

「俺、一途じゃねぇし」


俺とラズの言葉に何かに気がついたのか目を見開くクロード。


「あ、そういえば俺もだ!俺も一人に縛られたくな〜い!」


「おい、今までのはなんだ」

「えへへ〜、忘れてたぁ。ゆる〜く楽しく可愛い子たちといっぱい遊びたいなぁ」


「クロード、遊びも程々にしないといつか刺されますよ」

ラズの言葉に咄嗟に刺された箇所を押さえてしまう。


「あはは!気をつけるよ〜」

へらへら笑いながらラズの肩を組み絡みついているクロードの姿を見ながら前世を思い出す。


マジで笑えねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る