第9話

即座に枝木を拾って戻るとテントに近い場所で魔法で火をおこす。


クロードが獲ってきた魚に塩を振って丸ごと串に刺して串焼きにする。


毛玉の魚には塩を振らずそのまま焼く。


「うわあ!美味しそうだねぇ」

毛玉を抱えていたクロードが焚き火の側に寄ってきて俺の隣に腰掛ける。


「そいつ、魚食えるかわかるか?」


「んー?どうだろうね」

クロードは毛玉の口に指を引っ掛けてグイッと持ち上げて口元を確認している。


「小さな牙も生えてるし食べるんじゃないかなぁ」


「そうか」


「ミィー」

毛玉に目を向けると急にジタバタと短い足を動かして暴れ出した。


「うわっ!ちょっとじっとしててよぉ〜。アンバーのところ行きたいの?わかった、わかった〜」


暴れている毛玉をクロードが俺の膝の上に乗せると大人しくなった。


魚のいい香りがするからだろうか。俺の手をクンクンと嗅いでいる。


「なんだ待ちきれないのか?」

「ミュウミュー」


「その子何処にいたの?」

「森の中で倒れてたから連れてきた」


「まだ赤ちゃんだよねぇ?母親は何処かに行っちゃったのかなぁ」


「他の動物の気配しなかったし母親らしき動物もいなかったな」


「森に返してその子は生きられるのかなぁ?」


「母親が探してるかもしれないだろ」

膝にいる毛玉を見下ろすと俺たちの会話を聞いてるかのようにピクッと小さな耳を動かしている。


「そうだね。お母さんが迎えに来てくれるといいねぇ」

ぽつりと呟かれたクロードの言葉は優しい響きを持っていた。


それからクロードは一言も喋ることなく静寂が訪ずれる。


パチパチと火の粉が上がる音だけがする。


クロードが黙ると途端に静かになる。


「スープとお肉が焼けましたよ」

ラズの手にはこんがり焼けて美味しそうな骨付き肉。


「お肉だあ!美味しそうぉ!」

さっきのしんみりした様子は何処にいったんだ。


「早く食べようー!!!」


「こちらは小動物用に焼いたお肉です」

ラズは少量のお肉を乗せた小さなお皿を俺に手渡してくれた。


「ありがとう」


「いいえ。これも大事な出会いです。意味があってアンバーと出逢ったのでしょう。たくさん食べて元気になってもらいましょう」


ラズって時々僧侶みたいな言動するよな。

行動は忍者って感じだけど。



お肉の横に焼けた魚の身をほぐして乗せる。

毛玉の口元にお皿を持っていくと匂いを嗅ぐだけで食べようとしない。


「どうした?食べないのか?」


「ミューゥ」


「どしたのぉ?お腹減ってるでしょ?」


「食べませんか?」

クロードもラズも毛玉の食べようとしない様子に心配そうに目を向けている。


食べ物だとわかっていないのか、魚の身を指で摘み口元に持って行くとペロリと舐める。


食べ物だと理解した毛玉はお皿に顔を突っ込みながらはぐはぐと食べ始めた。


「お口に合ったみたいで良かったですね」

「たくさんお食べ〜」


毛玉が食べ始めたのを見届けて俺たちも食事を開始する。


「では、我々もいただきましょうか」

「いただきまぁ〜す!」

「いただきます」


ラズの作ってくれたスープを一口飲む。


「美味しい」

「それは良かったです」


「うん!ラズめっちゃ美味しいよ!!」

塩味のシンプルな味付けのスープだが、肉の旨みと野菜の甘みが出ていて美味しい。


「ラズはなんでも出来るんだな」


「なんでもは出来ませんよ」

「ちょっと!俺だって作ろうと思えば作れるよ!」


クロードはラズに張り合うように両手にフライパンとお玉を持ってアピールしている。


「では明日の朝ごはんはクロードに作ってもらいましょう」


「よし!明日の朝食は俺に任せなさーい!」


やる気十分のクロードは大きく頷くとお玉を頭上に持ち上げた。


はやく食えよ。


夕食を食べ終え誰が見張りをやるかで揉めた。


「見張りは俺がやるから二人は寝ろよ」

こんな森の中で寝られる気がしねぇし。


「交代で見張りをしましょう」

「そうだよぉ〜」


「一日ぐらい寝なくても俺は大丈夫だ」


「私も大丈夫です」

「俺も大丈夫だよー」


結局誰も譲らず、要人を警護する訓練と称して全員で見張りをすることになった。


焚き火の周りを三人と一匹で囲みながら、明日の予定を話し合う。


「ラズ!明日はゴールまでどのくらいなのー?」


「ここから歩いて一時間ってところでしょうか」

「早いな」


「ええ、ここから割と近いです」


「ねぇ、ひょっとして帰りは登った崖から落ちるとか頭おかしいこと言わないよねぇ?」

クロードは顔を引き攣らせてラズの返答を待っている。


「帰りは違う道からと思っていましたが、クロードの案も良いですね」


「嫌だ!絶対、安全な道で帰る!」


「わかりました。その子の親も見つけてあげたいですし帰りは別ルートの道を行きましょう」

クロードの勢いに若干引いているラズは俺に確認するように視線を向けてきた。


「ああ、そうだな。ラズに任せる」


俺の足元で丸くなり寝ている毛玉はすぴすぴと鼻息を漏らして寝ている。


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