第8話
崖が目の前に高々にそびえている。
ここ登るのか……。
命綱なしのロッククライミングが始まるぞ。
「ここを登ると大幅に距離が縮められるんです」
「いや、無理無理」
クロードは上を見上げながら首と手を同時に振り全力で拒否している。
「仕方ない。ここを登るとかなり距離の短縮できるんだろ?」
「ええ、そうです」
「え〜、アンバーここ登る気なのぉ?考えなおそうよぉ」
無理だって〜と俺に縋りつくクロードを脇横に抱える。
「へ?」
「行くぞ」
クロードを抱えながら崖に近づく。
「ちょ、ちょっと!え?なに?!」
「あ?」
「何、この体制!?」
「抱えて飛ぶ」
「ねえ!頂上が見えないぐらい高いんだけど、一体どうやって登るのさ!」
騒いでいるクロードを無視してラズに話しかける。
「おいラズ、お前は足場を作れ」
「はい。わかりました」
右にクロード、左にラズを脇に抱え上げる。
「行くぞ」
「むぅーーりぃーーー!!!」
クロードの叫び声が辺りに響く中、魔法を発動させて一気に飛躍する。
「せめて命綱を!アンバーの身体にぐるぐるに巻かせてよぉおおお」
「うるさい。騒ぐな。」
ラズの魔法に合わせて頂上を目指して飛び上がる。
俺の一飛びに合わせてタイミング良くラズの魔法が発動する。
もふっとした雲が足場になる。
何回か繰り返すと頂上に着いた。
木々に囲まれた開けた場所に足を進める。
特に表情を変えること無く平気な顔をしているラズを下ろして、クロードも下ろそうと視線を下に向けると手を目に当てて震えている。
「おい。クロード頂上に着いたぞ」
「ひぃ!落ちるぅ!」
「落ちねぇよ。着いた」
地面にクロードを落とした。
「ほらぁ!落ちたあぁ!!…ん?」
地面を両手で確かめると硬く閉じられていた目がやっと開いた。
「着いたの?」
崩れ落ちたままのクロードは首を傾げて周りをきょろきょろと見渡す。
「はい。着きましたよ。アンバーありがとうございました」
「ああ。ここはどこの地点なんだ?」
「目的地まであと少しですよ。アンバーのおかげで早く着きましたので、今日はあちらの場所でテントを張って休みましょうか」
ラズは亜空間からテントを取り出してテキパキと組み立てていく。
クロードはまだへたり込んでいる。
焚き火の枝木でも拾ってくるか。
「焚き火の木を拾ってくる」
「はい。よろしくお願いします」
森林の中を歩き丁度いい枝木を探す。
心地よい風が髪を揺らしながら通り抜けていく。
風が気持ちいい。
葉の隙間から光が差してキラキラと輝いている。この森は空気が澄んでいてとても綺麗だ
焚き木と嫌がらせのキノコを探しつつ、散策しているとキュゥと小さな鳴き声が何処かで聞こえた。
辺りを見渡して声の方向に進み寄る。
ミューウ…ミュウ……。
この辺りから聞こえた気がしたんだが…。
それにしてもか細い鳴き声だな。
辺りを見渡しているとガサリと葉っぱに隠れるようにして毛玉が動いた。
目を凝らして見てみると呼吸に合わせて毛玉が小さく動いている。
「ミューゥ」
近づき確認するとかなり弱っている生き物がいた。
「怪我してるのか?」
俺の声に反応するように毛玉が頭を少し上げてこちらを見上げる。
小さな足から血が出ている。怪我をしてから時間が経っているのか毛についた血は固まっている。
見た事ない生き物だ。例えるなら猫に近い生き物。
小さな三角の耳は垂れていて小さく震えている。
薄汚れていて元々の毛色はわからないが、綺麗な瞳をこちらに向けている。深い青の澄んだ色だ。
かなり衰弱しているように見える。
「怪我治してやる。じっとしてろよ」
毛玉の近くにしゃがみ治癒の魔法で怪我を治してやる。
「ミューミュー」
足を治してやっても動く素振りもない。
衰弱している様子からも何も口にしてないのだろう。
野生動物は人間の匂いが体につくと仲間外れにされてしまう。こんな生まれて間もない小さな動物一人では到底生きられないだろう。
ハンカチを取り出して毛玉に人間の匂いが移らないように体に包んで持ち上げる。
「ミューゥ」
二人のもとへ戻るとテントは完成しており、ラズは鍋を取り出していた。
「アンバー、おかえりなさい」
「ああ、クロードは何処に行ったんだ?」
地面にへたり込んでいたクロードの姿がない。
「近くに川があると地図にあったので水を汲んでもらってます」
「そうか」
「枝木ありがとうございました。では、火をつけましょうか」
「あ、悪い。忘れた」
すっかり枝木のことが頭から抜け落ちていた。
「え?枝木を拾いに行ったのでは?」
「ミュウミュウ」
「ん?その手の中にいる生き物はなんでしょう?」
ハンカチに包まれていた毛玉がごそごそと動いて顔を出す。
「この生き物知ってるか?」
よく見えるようにラズに近づける。
「いえ、見たことありませんね」
ラズが人差し指を毛玉の鼻に近づけるとひくひくと小さなピンク色の鼻を動かし匂いを嗅いでる。
「おぉーい!大漁だよお!」
水を汲みに行ったはずのクロードは魚を両手に抱えて戻ってきた。
「二人で顔を見合わしてどぉしたのー?」
「ミュー」
「おお!可愛いぃ〜。アンバーが拾ってきたのぉ?」
「拾ってない。何か食べさせたら森に返す」
「ほお〜。アンバーってやっぱり優しいんだねぇ〜」
「やっぱりってなんだよ」
「俺ってさぁ、結構人を見る目はある方なんだよぉ〜。だからわかるのさ」
「ふーん。とりあえずこいつ預かってくれ」
よくわからん独自の見解があるらしいクロードに、手の中で大人しく収まっている毛玉を渡す。
「え!?ちょっと!」
「木、拾ってくる」
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