第7話
従僕としてラピスに付き従うこと三ヶ月。仕事にもだいぶ慣れてきた。
今日も変わらない一日を過ごすと思っていた矢先に朝っぱらから父に呼び止められた。
「あ、アンバー!!今からサバイバルに行ってきてもらうよ!はい!これ持って」
「はい?」
出会った途端に意味不明なことを言われて紙と大荷物を手渡された。
「必要な物は揃えたよ!これ持って。さぁ、この服に着替えて!」
大荷物の中にはキャンプセットが入っていた。
………は?
父に急かされてあっという間に準備が整うと玄関に連れて行かれた。
「いってらっしゃい〜!」
手を振る父に見送られながら馬車に乗り込む。
カラカラと音を立てて馬車が動き出す。
未だに理解が追いつかず考えることを放棄して窓の外を眺める。
意味わかんねぇ。
ぼーっと景色を眺めていると馬車が止まった。御者が扉を開けてくれたので降りると森の入り口に停車していた。
入り口にはラズとクロードが立っている。
「アンバー、おっはよぉ!!」
「おはようございます」
「…おはよ」
クロードは朝から元気だな。俺は未だに訳がわかっていない。
「んー?アンバーどうしたのぉ?なんかいつもと雰囲気違うよ?」
「ここは何処だ?」
「あれぇ?聞いてないの?今から三日間お宝を探すんでしょお!」
クロードの言葉に思わず眉間に皺が寄る。
「地図渡されてないー?」
地図?なんか紙は渡されたけど中身を確認していない。
「これのことか?」
ポケットに適当に突っ込んでいた紙を引っ張り出して拡げる。
「そうそぉ、これだよ!ほら、この×が目印になってる場所がゴールだよ〜」
「私も昨夜父に突然言われました。どうやら見習いは全員このサバイバルに参加させられるみたいです」
「楽しそうだよねぇ」
のほほんと笑ってるバカは無視だ。
「何の意味があって三日間もサバイバルするんだよ」
「仲間意識を高める交流会のようなものらしいです。任せてください三日もかかりません。精々二日あれば行って帰って来れます。では、行きましょう」
「サファイア家の恒例行事になってるんだよお。さあ、宝探しに行こー!!」
ラズを先頭にテンションの高いクロードの三人で森の中へと足を進めた。
「説明もなく送り出しやがってあのクソ親父」
「アンバー、ご機嫌ななめ?いつもより口が悪いよぉ?」
「これが普段の俺だ」
「えっ!うそぉ!?そうだったのぉ?」
普段の俺と正反対の態度にクロードは目を見開き驚いている。
「口の悪さは父で慣れてますので私は気になりませんよ」
俺たちに足元の石に注意するように伝えるラズは特に驚きもせずに冷静だ。
「うん。まあ、俺もちゃんとしてるの上司の前だけだしねー」
クロードは軽い足取りで進んでいく。
今歩いている道は補整されていて歩きやすい。
地図を頼りに歩みを進める。
「それにしても清々しいねぇ〜」
「朝の森は気持ちいいですね」
「そうだな」
今まで勉強ばかりでのんびりと森を歩くなんてなかったからな。
鳥のさえずり。
サワサワと葉が風に揺れながら音を奏でる木々。
穏やかだな。
老後は田舎に家を建て、自然と寄り添いながら暮らすのもありだな。
先頭を歩くラズは迷う素振りもなく、地図を見ながらどんどん先を進んでいく。
先程よりだんだん険しい道になってきた。
足場の悪い獣道に進んでいる。
「ラズ〜!この道で合ってるのぉ?なんか足場悪くなっていってるんだけどぉ〜」
「合ってます。私は方向感覚に優れている方ですので迷うことは無いでしょう」
足場が悪く急な斜面を登りながら息すら切れてないラズは相当体力がある。
「こんな森の中で獣に襲われたりしねぇの?」
「それは大丈夫ですよ。この森に肉食獣はいないと聞いてます。小動物はいるみたいですが」
「襲われてもなんとかなるでしょー!」
ラズは暗部の父親本人から体術の教育受けてるし、クロードも普段全体的に緩いがかなり強い。
「そうだな」
俺たちの魔力も申し分ないほどだろう。
俺含め全員が手に荷物を持っていない。荷物は全て亜空間に放り込んである。
亜空間は高い魔力量を保持していないと使えない。
手ぶらのラズもクロードも亜空間が使えるほどの魔力を有しているということだ。
まぁ、余裕だな。
のんびりと森の中を歩くこと数時間。
大きな泉がある開けた広場に辿り着いた。
森の中にある透き通った泉は神秘的に感じる。
「一度ここで休憩をしましょうか」
「賛成〜!すっごい綺麗な場所だねぇ」
周りをきょろきょろと見渡してるクロードと休憩の準備に取り掛かるラズ。
ラズは亜空間からレジャーシートっぽい布を取り出して平らな地面へ広げる。
亜空間からお昼にどうぞと料理長に手渡された大量のサンドイッチやらオードブルやらを取り出し並べる。
手渡された量の多さに、一体この量の食べ物をどうしたら良いのかと困惑したが今はとても有難い。
「わーい!ピクニックだー!」
小さな子供のようにはしゃぐクロードはまだまだ元気が有り余ってる様子。この調子で最後まで体力が保つのか不安だ。
お昼を食べ終え、少しゆったりしていた時にそれは起こっていた。
なんだ?このメルヘンな世界はーーー
「うわぁ、こーんなに動物たちが会いにきてくれたよぉ〜」
リスやらうさぎやら小動物たちがクロードを囲っている。
指に小鳥も止まってる。
お前はどこぞのプリンセスか。
もしかして動物と話できんじゃねぇの。
「おい、肉食獣いるじゃん」
クロードを囲い集まっている動物に目を向ける。
見るからに肉食獣も混じってんだけど。
獰猛そうな狼をあいつ手懐けてるぞ。
「本当ですね。ですが害は無さそうですよ」
クロードに撫でられてお腹を見せている狼。
お前って猛獣使いなの?
「おいクロード。お前、動物と話できたりする?」
「えぇ?アンバーって見かけによらず可愛い思考回路してるんだねぇ。俺、動物の言葉なんてわかんないよお」
馬鹿にされたのはわかったので、こいつの嫌いなキノコを夕飯に混ぜて嫌がらせしてやる。
今晩の料理は決定した。
ゲームの知識がある俺はクロードの嫌いな食べ物も把握済みだ。
ラズはゲームの登場人物の中にいなかったので諸々の詳細は不明。
「俺は動物も人間も手懐けるのは得意な方〜」
「人間を動物と一緒にすんなよ」
「えぇ?一緒でしょお!情報を引き出すのも、要求を飲ませるのも俺得意だよぉ」
うん、こいつはそういう奴だ。
自分の思い通りに人を動かす非常に人中掌握に長けたキャラクターだったわ。
ふわっふわの見た目と喋り方からは想像できないぐらい頭が切れる参謀タイプだったわ。
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