第5話
ご当主様にご挨拶を終え、次に向かった先は公爵子息のラピスの部屋だ。
ラピスが目の前に立っている。
画面越しで見ていた人物が意思を持って動いている姿を見るのは不思議な感覚だ。
「ご挨拶に伺いました。私の息子のアンバーです。今日から従僕としてラピス様にお仕えが決まりました。どうぞよろしくお願いします」
父が姿勢を正し、ラピスに俺を紹介している姿を横目にチラッとラピスを観察する。
ラピスラズリを連想する群青色のサラサラの髪は肩までの長さに真っ直ぐと切り揃えられている。
スッと伸びた高い鼻筋とサファイアが嵌っている様なキラキラ輝く青い瞳。
まんま宝石を擬人化したみたいな美少年だな。
陽の下で見る瞳はもっと輝いて見えるんだろう。
「本日よりラピス様にお仕えいたしますアンバー・クォーツです。よろしくお願いします」
「ラピス・サファイアだ。これからよろしく」
まだ声変わりもしていない成長途中の声だが、上流階級の威厳ある声色だった。
それにしてもご当主様にそっくりだ。
今はまだ小柄で幼さが目立つが、あと数年もすれば美青年へと成長を遂げるだろう。
ラピスは3歳の頃に母を流行り病で亡くしている。
ラピスの母親が流行り病で亡くなってからサファイア家の公爵夫人の座は不在のまま。
公爵様は後妻を娶らずに独身を貫いている。
まぁ、今後母親の親族が押しかけてきたりするんだが時期がきたら対処しよう。
攻略対象の悲しい過去は幸せになる為のスパイス。現実世界で齢三歳で母親を病で亡くすなどラピスの心情はどうだったのだろう。
悲しい過去による恋のスパイスはゲームの空想上の中で成り立つことであって、現実となると話は別だ。
後に誘拐事件が起きる。ラピスが信頼してる人物により誘拐されて人間不信になる予定だ。
拐かされ、親族に襲われ、で様々な事件がラピスの身に起きる。
幸いにも俺にはゲームの記憶があり、今後の事件を円滑に解決できる。
今後の面倒ごとに巻き込まれないようにトラウマ事案は即刻対処。ラピスが人間不信になったら従者になることがほぼ決定している俺が苦労することになる。絶対に阻止だ。
従者自体を回避することはクォーツ家に生まれた時点で諦めている。
抗える処はもちろん抗するが流れに身を任せた方が良い場合もある。
父が公爵家を案内をしてくれているので、迷わないように部屋の配置や構造を頭に叩き込む。
これからのことについての説明を受けた。
詳しい仕事内容は今から会いに行くラピス様の従僕を担っている者たちに聞けと言われた。今後は共に主人に仕えるそうだ。
使用人区域の休憩室で待ってもらっているらしい。
使用人区域に入るとやっとメイドらしき人とすれ違う。公爵家のメイドは歩いてるだけで気品を感じる。
休憩室には俺とそんなに歳が変わらない少年二人が直立不動の姿勢で待っていた。
「やぁ、待たせたね」
身じろぎひとつしない二人に声をかけると父は俺に振り返り少年らに紹介した。
「今日から見習いとして君たちと同じ従僕に配属になったアンバー・クォーツだ。仕事内容について教えてあげてほしい」
「かしこまりました」
ぺこりと頭を下げて綺麗なお辞儀を披露する二人。
向き合っている一人には見覚えがある。今後、同じ従者としてラピスに付き従う人物。
「ラズ・フローライトです。よろしくお願いします」
淡々とした声に無表情。くすんだグレーの髪色に鳶色の瞳の普通の少年だ。この世界では珍しい少し地味な印象を受ける。
「クロード・モルガナイトです。よろしくお願いします」
クロードはフワフワの薄ピンク色の髪にペリドットが嵌め込まれたような澄んだ緑色の瞳をしている。少し垂れた瞳のせいか柔和な雰囲気がある。
「初めまして。本日から見習いとして従事いたしますアンバー・クォーツです。ご教示のほどよろしくお願いします」
「よし!詳しい仕事内容については同僚である二人から学ぶように」
後は任せたとばかりに二人に丸投げすると、父は歩きながらひらひらと手を振り休憩室から出ていった。
父が部屋を出ていったのを三人で見送ると、クロードは気の抜けたとばかりにだらっと椅子に腰掛けた。
おい。さっきの態度と差が違いすぎないか。
「君たちもこっち座りなよー」
ぺしぺしとテーブルを叩き促してくるのでクロードの隣に座る。
「ねぇ、ねぇ〜もしかしてさぁベリル様と親子?」
「はい。私の父親です」
「やっぱり〜!顔立ちは似てないけど、髪も瞳もそっくり!雰囲気似てるぅ!」
中身も変わらずゆるいな。ゲーム通りの性格のようだ。
「アンバーは何歳なのぉ?」
「今年13歳です」
「じゃあ俺らと同い年じゃーん!これから仲良くしてねぇ〜!!」
ふわふわと笑いながらバシバシと俺の肩を叩いてくる。痛い。
向かいに座っているラズ・フローライトの視線が痛い。めっちゃ見られてる。
「父があなたを褒めていましたよ」
「私をですか?フローライトさんのお父上と私は何処かで面識が?」
「体術を教えていたランディと名乗る人物に心当たりはありませんか?その者は私の父です。あまり人を褒めることがない父が手放しで褒めていたので、どんな人物なのかと会えるのを楽しみにしてました」
ああ、俺を暗殺者に育ててるのかと思わず錯覚した武術の先生か。
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