第4話
毒を慣らす訓練中にいくつか思い出したことがある。
まさに生死を彷徨い記憶が戻るアレだ。
俺はこの世界が乙女ゲームの中の世界だと気がついた。
まずサファイアという名前に違和感を覚え、そこから芋づる式に思い出していった。
件のセフレが俺の本命だと勘違いした幼馴染がハマっていたBLゲーム。
それこそが俺が転生したであろう乙女ゲームの世界だった。
ちなみに幼馴染は女だった。家が隣同士で同じ年。
子どもの頃からお互いの家を行き来するぐらいには仲が良かった。
妙に気の合う腐れ縁。
全く女として見てなかったし、向こうも俺を男として全く意識してなかった。
同じ大学に通っていたので校内でもよく連んでいた。家が隣同士だったこともあり、時間が合えば一緒に帰ったりもしていた。
俺には珍しくも体の関係は一切ない大切な友人だった。
その幼馴染はちっとも女らしくない女で、女を捨ててた端があるほど。でも一緒にいて楽しかったし、お互い気を使うこともなかった。
嫌がる俺に無理やり乙女ゲームをさせてきたり、聞いてもいないゲームの内容を永遠聞かせてきたりと人の話を聞かない奴でもあった。
当時から記憶力が良かった俺はばっちり乙女ゲームの内容を覚えていた。
アンバー・クォーツはラピス・サファイア公爵令息の従者として登場していた。
男しか存在しない世界。
宝石の名前が家名である攻略対象たち。
【ガーネット王国のアレキサンドラ王子】
【サファイア家のラピス公爵令息】
【エメラルド家のジェード侯爵令息】
【シトリン家のルチル辺境伯令息】
【スピネル家のシェル伯爵】
赤、青、緑、黄、紫とそれぞれ攻略対象の色が決まっている。
ゲームの開始は攻略対象たちが学園を入学する所から始まる。
ある日突然、治癒魔法を使えるようになる平民が学園に入学する。その男を攻略者たちが奪い合う恋愛ゲーム。
『ムーンストーンと願いの聖石』
そして俺が仕えるであろうサファイア家のラピス公爵令息も攻略対象の一人だった。
攻略対象の家名は全て代表的な宝石の名前。クォーツは石の名前で完全なるモブ。
俺は絶対的なモブ役だと安堵した。ラピスの従者ってことは近くでゲームの進み具合を観察できる。
面倒ごとに巻き込まれないように、主人公の動向をしっかり見よう。
城のような豪華で立派な佇まい。
外観は白い壁で統一されている公爵家。
公爵家の中に一歩足を踏み入れると繊細で上品な色合いの装飾でまとまっており、美術品が最高のバランスで所々に配置されている。
これから公爵家のご当主様に挨拶をするべく、先を歩く父の後について長い廊下を歩いていく。
父が一つの大きい扉の前で足を止めた。
ついに公爵様とご対面だ。
ノックをする前にチラリとこちらに目配せする父に応えるように小さく頷く。
コンコンーーーー
声だけでぞくりとくる深みのある甘い良い声が辺りに響く。
「入れ」
「失礼します」
歳は30代半ばぐらいの色気のある美丈夫が手に書類を持ち正面の机に掛けていた。
「ご当主様おはようございます。ご挨拶に伺いました。本日からサファイア公爵家に仕えますアンバー・クォーツです」
「アンバー・クォーツです。本日からよろしくお願いいたします」
「やぁ、初めまして。サファイア家当主のヘリオドールだ。ベリルからとても優秀な息子だといつも耳にタコが出来そうなくらい聞いてるよ」
持っていた書類を机に置くと椅子から立ち上がり、長い足を優雅に動かしながら大きな手が俺の前に差し出された。
両手を差し出すと、覆い隠すように手を重ねられてぶんぶんと上下に揺らされる。
「アンバーは13歳だったね。私の息子は今年10歳になるんだ。是非、仲良くしてやって」
終始穏やかな笑みを浮かべている公爵様。
「ご子息様に精一杯お仕えさせていただきます」
表情に笑みを乗せてご当主様の令を拝命し頭を下げる。
「よろしくね」
公爵家のご当主様はもっと厳つい感じの人だと思っていたがふんわりした空気を纏っている。
まぁ、心中はどうかわからないのが貴族ってもんだ。一度相手に弱みを見せると隙を突かれ付け込まれる。
貴族は蹴落とし合いの世界だ。
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