第3話
一人で歩けるようになると自分の容姿が気になった。あの両親から生まれた俺の髪と目の色が知りたかった。
今世の自分の容姿を初めて見た時の衝撃は忘れられないだろう。
鏡には滅多に見ないほど綺麗な顔をした子どもが映っていた。
鏡に映る自分の顔をマジマジと見る。
顔立ちは母親にそっくりだ。髪色と瞳の色は父親から受け継いだらしい。
黒髪は馴染みのある色だから良いとして、金色に輝いている瞳にはしばらく慣れそうもない。
鏡を見るたびに驚きそうだ。この目の色を見るとアンバーって名前も納得だよ。
確かアンバーって琥珀って宝石のことだよな。
クォーツは水晶だし、宝石となんか関係ある家なのか?
疑問に思った俺は母親に聞いてみた。宝石と我が家は全く関係なかった。
クォーツ家はサファイア公爵家に代々仕える由緒あるお家柄らしい。
斯いう俺も六歳になるとサファイア家に仕えるべく、礼儀作法からお茶の入れ方までさまざまな知識を叩き込まれた。
一通りのマナーを身につけると今度は武術や剣術の稽古が始まった。
その合間に魔法の扱いを学ぶ授業も同時進行。
転生した世界は普通に魔法があった。
俺は魔力量も多くて思った以上にスペックの高い転生を果たしていた。
その他にダンスの練習にピアノとバイオリンと学ぶ内容が増える。
1つ身につけると2つ増える。
こんなスパルタなスケージュールを6歳相手に組み込むとかどんな英才教育だ。
一度見たものは忘れない記憶力の良さも然ることながら、課されている勉強量に俺がついていけるとわかるや否やどんどん増やされていく。
それを容量良くこなせる俺が問題なのか。
優秀な息子だと過大評価し、俺に期待をよせる父親が問題なのか。
そして俺が最も辛いと感じる訓練は毒を身体に慣らしていくことだった。
吐き気なんて可愛いもので酷いと吐血する。熱が上がり意識は朦朧とするし、終わりのない苦痛が何日も続く。
やっと苦痛から逃れ、過ぎたと思えば再度やってくる。
毒慣らしの初日なんて最悪だった。思い出したくもない。
とにかく終わりが見えないのが辛い。
毒の量を増やしていくと同時に慣らしていく毒の種類も増えていく。
俺の身体は様々な毒に対して免疫がついていった。
まだ6歳だぞ?日本だと小学1年生で友達作ることが目標なんだぞ?
世界が変わると常識も変わると学んだ。
13歳にもなると完璧な教養を身につけ、言葉遣いや相手に心情を悟らせない表情も造作にも無い。
人中掌握についてコンコンと父親が教えてくれたので可愛くない13歳に育ったことだろう。
朝から晩まで詰め込まれていた勉強も徐々に少なくなった頃、朝早くから父の執務室に呼ばれた。
サファイア公爵家当主の従者を務める父の朝は早い。
いつもなら出勤している時間に何の用件だろう。
コンコンーーー
父の入室許可の声を聞き、ドアを開けると満面の笑みを浮かべた父が出迎えてくれた。
「おはようございます。父上」
「おはよう!アンバー」
さぁおいで!と言わんばかりにこちらに両手を広げ、俺が来るのを待っている父親。
いや、抱きつかねぇよ。
俺が微動だにせず扉の前に突っ立ったまま、冷めた表情を父親に向ける。
自分に抱きついてくれないとわかると、口を突き出して拗ねた表情をする。
「お呼びでしょうか?」
「アンバー、おはようの挨拶がまだだよ。ほら、おいで」
めげずに手を広げ続ける父親には近づきたくないが、抱擁をしないと先に進まないので大人しく抱き付きにいった。
「アンバー、大きくなったね」
少し涙ぐみながら俺の成長を喜んでいる。今日も通常運転でなによりだ。
俺の父親は母親もだが、言葉と行動で愛情を伝えてくる。それはもう異常な程に。常日頃、ぎゅうぎゅうと抱き締められる。
まぁ、要するに息子に対する愛情が重い。
「アンバー、君は今まで弱音を吐かず立派に勉学に励んできたね。クォーツ家の跡取りとして私は鼻が高いよ」
父は慈愛の籠った優しい顔で褒めてくる。
でも俺は知っている。この父親が優しいだけの男ではないことに。
何故ならこの父こそがスパルタスケジュールを化した張本人だからだ。
「ありがとうございます」
「今日からサファイア公爵家の見習いとして公爵家のご子息様に仕えてもらう。私と一緒に来てもらうよ」
やっと攻略対象とご対面か。
「はい。わかりました」
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