第2話

「わたしって、昔からちょっと抜けてるのよね。」


「そうなの。」


「物忘れとか、思い込みとか、ちょっと人より多いかも。」


「そうか。」


「いつか大きな失敗をするかもしれないよ。」


「そうなの。」


「、、、、ちょっと、真剣に聞いてる!?」


「聞いてるよー。」


「じゃあ、今、わたしが何に悩んでるか、言ってみて。」


「言うよぉ。」


「ちょっと、まずタブレットを置いてみようか。」

瑞紀みずきは、男の腕を押さえつける。


「待って、待って、これだけ入力したら、終わるから。」


「だめ!わたしの話を聞きなさい。」


「先に仕事してたんだよ。俺の都合を無視するなよ。」


「今日は仕事しない約束だったでしょ!」


「う!でも。ごめん!2分だけ待って。

この報告入れておかないと、明日が大変なことになる。」


「もぅ!2分だけだよ。」


「ごめん。ありがとう。だから瑞紀みずき好きだよ。」


「もう!集中して早く終わらせて!」







「ねぇ、わたし真剣に悩んでいるんだからね。」


「うん、これは仕事と同じで、情報の記録と報告、そして共有が解決策だね。」


「どう言うこと!?」


「例えば、玄関の施錠せじょうでしょ。」


「それ、どうするの?」


施錠せじょうしたらその場で、施錠せじょうしました!ってメッセージ入れるんだよ。」


「それをあなたと共有するのね。」


「そう。」


「そうか、わたし、施錠せじょうした記憶は、

今朝だったのか昨日だったのか、よく 迷うことがあるけど、

メッセージの履歴で後から確認取れるのね。」


「そうだね。」


「、、、子供を車内に置き去りにした事故があったでしょ。」


「あったね、むごいよね。」


「あれ、他人事じゃないよなぁ、って思っていた。

ちゃんと下ろしたら報告入れるね。」


「うん、それがいいね。」







翌朝も、男が先に家を出た。

しばらくして、瑞紀みずきからメッセージが届く。

テキストはなく、静止画が一枚。

見慣れた自宅の玄関ドアが大写しに。

ドア枠の上の方は、画面からはみ出ている。

画像の中心にはドアノブを引っ張る瑞紀みずきの左腕が。


引っ張ってるけど開きませんよ、

つまり施錠せじょうしてありますよ!


と、主張している画像だ。







しばらくして2枚目が。

からのチャイルドシート。


子供は間違いなく保育園で下ろしましたよ、


と、主張している。







そうして、毎朝、画像が届けられた。

朝だけでなく、帰宅後に再度外出する時にも、

施錠せじょうの証の画像が送られた。

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