【四十二歳】
「お、お母さん。私、東京の大学に行ってみたいの……!」
十七歳になったユキナは、進路の事を相談したいと言うので聞いてみると意外な内容だった。遠方だから一人暮らしになるだろう。
本心ではユキナを守るためにも反対したかったが、ユキナの進路に口出しできるほど母親の努めは果たせていないという自覚はあった。
賢く真面目で責任感のある子供に育ったことは誇らしい反面、責任感が強すぎて私が重荷になっているであろう事に申し訳なさを感じ続けている。
だから、ユキナが独り立ちしたいという申し出は嬉しいし、何より私という
今まで『贈り物』と付き合ってきて理解しているが、贈り物は私の近くでしか発生しない。
だから、ユキナが遠くに行っても大丈夫だとは思う。
もちろん寂しさもあったし、なにより私の守るべき対象が遠くへ行ってしまうという不安感はやはりあった。
ユキナは私が守らなければならない……。
篠崎のいる田舎から出てから、気がつけば二十五年近く経ち、振り返ると私の人生の無為さを実感してしまった。
母に守られ、娘に守られ、アンドレアスを失い、私は誰も守れていないままだった……。
ユキナは私が守らなければならない……。
せめてこの子だけは……私が……。
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