【二十七歳】
ユキナが育っていくに連れて、私の生活はユキナを中心に回っていた。
しかし、鬱なのか贈り物なのか分からないものを見て過ごす毎日は容易ではなかった。
贈られてくる幻視も幻聴も、私が独りで孤独に壁を見つめ、独り言を口走るものばかりだった。
そして、ある日気がついた。
それは『ユキナ』の存在だった。
他のどの世界にも『ユキナが存在しない』のだ。
どうして何年も気が付かなかったのか、壁しか見えない贈り物ばかりで気が付かなかったのもあるが、滅入っていた自分を情けなく感じてしまった。
この事実に気がついた途端、私の心にぼおっと火が点いたのを感じた。
ユキナは全ての世界でこの子しかいない。
『私がユキナを守らなければならない』と言う自身の根幹たる意志を持ったからだ。
あぁ、私の母もこんな気持ちだったのだろう。
夕暮れ、スーパーマーケットからの帰り道。遠く伸びる二人の影を見て改めて実感した。
私はこの小さな手を離してはならないのだと。
「おかあさん、だっこ」
手を伸ばし求めるその身体を抱き上げ、帰路についた。
これが雪子=ブレメンテの覚悟であり、第三の人生の始まりだった。
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