【二十六歳】

 私は市役所の担当職員から色んなことを伝えられた。

 自らが精神障害者に認定され、障害年金を貰えることになったこと。これからは家にヘルパーさんというお手伝いさんが来ること。


 そして、婚姻関係を結んだままアンドレアスが行方不明になっているため、手続きをしないと離婚はできない旨の説明を受けた。


 私はベビーベッドで眠るまだまだ小さい幸せを見つめながら、何を言っているんだと溜め息をついた。


 あれ以来アンドレアスの贈り物は見えない。きっと、もうこの世界にも――いや、どの世界にもアンドレアスは居ないのだろう。

 でも、私が待たなければ誰がアンドレアスの生存を信じるのだろうか。


 私は『ブレメンテ』というアンドレアスとの唯一の繋がりを残し、アンドレアスの帰りを待ち続けることとした。


 そして「アンドレアスと離婚するつもりはない」と担当職員に向かって明言した。


 雪子=ブレメンテ、それが私の名前だ。

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