【二十四歳】

 私は結婚を機に店を離れた。

 店長の勧めでもあったが、流石の私も他の男に接客して金を稼ぐ事に後ろめたさを感じたからだ。


 この頃から、贈り物は徐々に私にとって嫌なものを見せるようになってきた。


 アンドレアスがどこかへ行ってしまう幻視、知らない人物の叫び声、疲れた初老の女性、定まらない視界に壁ばかり映る幻視。


 どうしてこんな贈り物ばかりになったのか分からなかったが、不安の中にも私は希望の実りを掴むことができた。


 そう、私はアンドレアスとの『子』を授かったのだ。


 私はその報を知るや否や、真っ先にアンドレアスのもとへ向かい事情を説明した。


 アンドレアスは一瞬喜びの顔を見せるも、次の瞬間には決意を込めた顔で「ありがとう」と一言声をかけてきた。



◇ ◇ ◇



 翌日、近所のスーパーマーケットに買い物へ行き、自宅へ戻ると私は呆然としてしまった。


 部屋のカーテンは破れ、扉にヒビが入り、刃物の跡がいたるところにあり、部屋やタンスは荒らされ、畳や壁紙にはアンドレアスのものと思われる血痕が大量についていた。


 しかし、肝心のアンドレアスの姿はどこにもなかった。


 こんな時こそ幻視が見たいのに、流れてくるのは様々な現場検証の映像だけ。

 誰もいない血塗れの部屋、骨組みしか残っていない全焼したアパート、畳に残った人間の染み、どれもアンドレアスと確定できるものはなかった。


 誰が、なぜ、どうして……?


 この贈り物は別の世界の私が体験したことが流れてくる――のだと思っている。

 しかし、こんな事件は一度も流れてこなかった。きっと、どの世界でも私はこの現場に遭遇できていないのだろう。


 せっかく得た力も肝心なところで何の役にも立たせることができないのだ……。


 私に残されたのは結婚式で着た黒衣の振袖と、お腹の中で眠る赤子だけだった。


 これは幸せの終わりではないはず、まだ花畑には小さな花が残っている……。

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