【十四歳】

 養子に出された先の養父はすぐ呆気あっけなく病気で亡くなってしまった。

 血の繋がった親族こそいるものの書面上は他人であり、今はボロ家に自分一人のみ、これで私は名実ともに天涯孤独てんがいこどくの身になってしまった。


 大した遺産もなく、手元にあるのは母から貰った黒衣の振袖だけだった。


 この頃は幻聴や幻視にも変化があり、母や父などの近しい人の幻視を見ることも少なくなり、赤の他人と話す事が多くなった。


 私は少しだが察し始めていた。この幻視は夢に近いものなのだと。

 現実のようでどこか少し違う、自分が選ばなかった未来――すなわち別の世界の自分の出来事が見えている、そう感じていた。


 今この世界で近くに母や父がいないのと同じで、他の世界の私も近くに母や父が居ないのだろう。


 子供のころに聞いた幻聴の父や姉たちが優しかったのは、幻聴を持っていない世界の自分だったからであり、きっと家族に気味悪がられることがなかったのだろう。


 父が寿司を買ってきた日も、どの世界でもあの日の父は寿司を買っていて、たまたま父が早く帰ってきた世界の話を聞いてしまったのだろう。


 だから、独りになっても幻視と幻聴を参考に生きていこう、そうすればきっと幸せを見つけられるはずだと。

 幸せそうな世界の自分についていけば、この世界の自分も幸せになれるに違いない。そう思うようになった。


 私はこの幻視と幻聴を『贈り物』と呼ぶことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る