【七歳】

 物心ものごころがつき始めた頃、私は周りの反応から自分がおかしな人間だという事を理解し始めた。

 私の父は外へ出さないよう、母に強く言い聞かせて軟禁なんきん状態にした。


 外に出て誰かと話すことができなくなった私は悲しみはしたが、それでも見えない誰かと話すことができたため、そこまで寂しくはなかった。


 私はこの頃から『誰』が話しかけてきているのか認識できるようになった。

 今まで話しかけられていた優しい声の正体が、父や姉たちであることが分かった。なぜ幻聴の父や姉たちは優しいのだろうか、だからこそ本当の父や姉たちの対応を寂しく思ってしまっていた。


 軟禁されていたが、母はいつも私の味方となり、幻聴が聞こえる私を気味悪がること無く、他の姉達と等しく愛してくれた。


 私自身も、母にだけは愛されているということを明確に理解していた。


「愛しているわ、雪子。今日もおやすみなさい……」


 母はいつもこうして寝かしつけてくれた。

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