【三歳】

 明るく元気で人懐っこかった私は、誰よりも人との会話を楽しんでいた。

 そんな天真爛漫てんしんらんまんと呼べる私に、一つの転機が訪れた。


 この頃から私は『見えない何か』から話しかけられるようになった。


 例えば、「寿司を買ってきたぞ」と玄関から父の声が聞こえたので、玄関へ出迎えに行くとそこには誰もいない――というような事が頻発するようになった。

 また、見えない声はその人がまだ話していない事を話すこともあり、前述の内容も実際に父が帰ってきてまだ誰にも言っていないのに、寿司を買ってきたことを当てることができた。


 もちろん必ず聞こえた内容が正しいわけではなかったが、周囲の人間からはただ虚空こくうと会話しているだけでなく、予言や予知、人の心の中を覗いているかのように思われていた。


 母は「これくらいの歳の子にはこういう事がある」と言ってくれていたが、父や姉達は気味悪がって次第に近寄らなくなっていった。


 一方で、私自身はわけもわからず、見えない何かとの会話を楽しんでいた。


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