生徒会長の恥ずかしい姿を知っているのは、俺だけなのに・・・

@JULIA_JULIA

第1話

 高校入学から二ヶ月ほどが経ったある日の放課後、俺は校内をフラフラと散歩していた。部活動やアルバイトに身を捧げているワケではないので、時間を持て余しているからだ。帰宅したところで口煩い妹からの野次を浴びるか、漫画やゲームに興じるか、それくらいしか、やることはない。よって気儘に、そして気軽に探索をしていた。たまに思い立っては、こういうことをしているのだ。


 職員室の前を通ろうが、上級生の教室の前を通ろうが、特に怖気づくようなことはない。俺がこの学校の生徒である限り、立ち入ってはいけない場所など殆ど存在しない筈だ。よって校舎内のどこを歩いていようとも、咎められる筋合いはない筈だ。


 とはいえ、わざわざ体育館や運動場まで足を運ぶつもりはない。それらの場所に赴いたところで、爽やかな汗を流して青春を謳歌している生徒たちの姿に当てられるだけだろう。自分の惨めさ───とまで言ってしまうと些か自虐的すぎるが───を痛感してしまうだけだろう。多少のことに怖気づいたりはしないが、引け目は感じてしまう。それが俺という人間だ。


 そんなワケで三棟ある校舎内を彷徨うろつく。特別教室の多くは、なんらかの部活動に使用されていて、中からは声や音が聞こえてくる。もちろん一般教室も同様であるが、その音色は明らかに質が異なる。一方には真剣さが含まれ、もう一方には軽薄さが含まれている。




 生徒会室の前を通りすぎるが、中からは全く声がしない。てっきり闊達かったつな議論を日々繰り広げているモノだと思っていたが、今はなにかの資料でも読みふけっているのだろうか。この部屋の番人───いや、生徒会長はなんとも厳しく高潔な女子生徒である。だから今このときも真剣に職務を遂行しているだろうし、彼女の家来たちも、そうだろう。


 神楽坂かぐらざか 時雨しぐれ。それが、この私立藤乃宮ふじのみや学園高等学校の生徒会長の名前である。彼女は二年生にして、生徒会長である。わざわざ覚えようと思ったワケではないが、もう覚えてしまった。なぜなら週初めにある朝礼で毎度毎度ご丁寧な自己紹介をしてくれるモノだから、ついには覚えてしまったのだ。




 やがて、一番南側にある第一校舎の四階まで来た。その西端近くの場所まで来た。そこには物置部屋と化している二つの空き教室がある。それらの教室の窓の向こう側には幾つもの棚が並んでいるように見えるが、それ以上視線は通らない。そして、教室の前後の扉に備えつけられている小さな窓には、内側から目隠しがしてある。真っ黒な布によって、やはり視線は通らない。


 空き教室には鍵が掛かっている。中には数多のガラクタが散乱しているため、生徒が無断で立ち入らないようにしてあるのだ。そのことは既に知っている。とはいえ、なにかの間違いがあって鍵が開いていないかと期待をしてしまう。だから俺はこの場所に、ついつい来てしまう。どんなガラクタがあるのだろうかと想像をしてしまう。


 よって扉に手を掛けたが、びくともしない。右手に強い抵抗感が伝わってきただけだ。侵入者を阻む強い意思が感じられる。後ろの扉がダメならば、次は前。しかしやはりそちらも、びくともしない。だが落胆することなどない。この空き教室は入れなくて普通。もし入れたならば、それはラッキー。そんなことだから、決して落胆などしない。


 手前の空き教室は戸締まり万全。よって奥の方へと足を運ぶ。どうせ、こちら側も閉まっているのだろうが、ここまで来たのなら試してみるべきだ。ということで、後ろの扉に手を掛ける。すると抵抗感がなかった。右手を動かすと同時に扉はスライドした。なんという好機、思わぬ収穫。そのため俺の心は高揚した。しかしその直後、些か動揺した。多少のことには動じない俺が動揺してしまった。だが動揺したのは、俺だけではない。


「なはぁっ!? な、なな、なんだっ!? きき、貴様・・・、こ、こんなところで、一体なにをしている!?」


 俺の視線の先にいる女子生徒───つまりは、空き教室の中にいる女子生徒が激しく動揺している。その顔には見覚えがある。この私立藤乃宮ふじのみや学園高等学校の二年生であり、生徒会長でもある神楽坂かぐらざか 時雨しぐれだ。しかし彼女は見慣れない格好をしている。魔法少女のコスプレとでも言おうか、そんな格好をしている。


 生徒会長こそ、一体なにをしてるんですか?


「と、とと、とりあえず、そこを閉めろぉ!」


 般若の如き表情で、ビシリと指差してきた生徒会長。その気迫に押され、俺は従う。


「あ、はい・・・」


 空き教室の中へと入り、扉を閉める。すると、またしても生徒会長が叫ぶ。


「どうして入ってくるぅ!?」


 生徒会長は両腕を慌ただしく動かして、自身の腹や太腿に添えている。それらの部位はあらわになっていて、縦に小さく走る美しい直線が見えている。なんともキレイなへそをしている。


 生徒会長は現在、半裸に近い。しかしそれは半裸以上という意味合いではなく、半裸未満だ。『全裸よりは半裸の方に近い』という状態だ。魔法少女のような衣装によって隠されているのは、肩、胸の一部、股の周辺だけなのだ。どう見ても体の半分以下しか隠れていない。かなりセクシーな魔法少女である。


「お、おぉいっ! で、でで、出ていけっ! 早く出ていけぇぇ!」


 とうとう膝を抱えるようにして屈み込んだ生徒会長。そのため、いくら大きな声を出されようが、もはや気迫も威厳も感じられない。


「なにしてるんですか?」


「か、関係ないだろぉ!」


 生徒会長は体を丸め、顔を真っ赤にしている。そして恐ろしいまでの形相で俺を睨んでいる。


「いや、どうですかね? 関係なくはないと思いますけど」


「なんだとっ!?」


 自分の高校の生徒会長が校舎内でセクシーすぎるコスプレをしているとあっては、俺の沽券こけんに関わる。そんな高校に通っているとなると、体裁ていさいに関わる。よって無関係とは言い切れないと思う。


「一体それは、どういう───」


 言葉を止めたあと、生徒会長の顔が青ざめた。つい先程までは真っ赤だったのに、今は真っ青だ。


「そ、そそそ・・・、それは、なんだ?」


 唇と指先を震わせながら、俺を指差した生徒会長。しかし俺はなんのことだか分からず、キョロキョロと自分の体を見る。生徒会長と違って、可笑しな格好はしていない筈だが。


「そ、それだ! その胸ポケットにあるのは、なんだ!?」


「スマホですけど・・・?」


 俺のブレザーの胸ポケットにはスマホが入っている。だからなんだと言うのだろうか。別にスマホの所持は禁止されていない。よって咎められるようなことではない。


「貴様・・・。と、盗撮してるのか?」


「しませんよ、そんなこと」


 俺は決して真面目な生徒ではないが、だからといって犯罪行為などしない。そこまでの不良生徒ではない。


「ウソをつけ!! レ、レンズが・・・、レンズがこちらに向いているだろうがぁ!!」


 その言葉を受け、胸ポケットへと視線を移す。たしかにレンズ部分がポケットから出ている。しかしそれは、スマホが胸ポケットに収まり切らないためだ。そして勿論、現在スマホは大人しく待機しているだけだ。


「ど、どうするつもりだ? その動画を、どうするつもりなのだ?」


 いや、だから撮ってないですけど・・・。


「見せるのか!? 全校生徒に見せるのか!?」


「見せませんよ。そもそも動画なんて───」


「じゃあ仲間うちで見るのか!? 鑑賞会を開くのか!? ───ハッ! も、もしかして・・・、既に生中継している・・・のか?」


「だから、そんなこと───」


「あぁっ!! 分かった!! 分かったぞ!! ワタシを脅す気だろう! ワタシを手篭てごめにする気だろう!」


 生徒会長は激しく錯乱しているらしく、俺の言葉を聞こうとしない。


「そうして、仲間うちで楽しむつもりなのだろう! ワタシの体を堪能するつもりなのだろう!」


 だから、そんなことはしませんから。俺は犯罪者になるつもりなんて全くないですから。


「とりあえず静かにして下さい。誰か来たら困るでしょ?」


「困・・・る? ま、まさか・・・、今ここで、襲うつもり・・・なのか? それを、生中継して・・・」


 いやいや、困るのは生徒会長でしょ? そんな格好を人目に晒したいんですか?


「くうっ! まさか・・・、ワタシの初めてが、こ、こんな形で・・・」


 だから襲いませんからね。・・・っていうか、生徒会長は未経験なのか。・・・まぁ、俺もだが。


「・・・ちなみに、その・・・。ひ、避妊具は携帯しているのか? 持ち合わせていないなら・・・、ワ、ワタシのを使ってくれ・・・」


 そんなモノ、どうして持ち歩いてるんですか?


「ゆ、床を汚してはマズいな・・・。なにか敷くモノを・・・」


 生徒会長は立ち上がり、周りにあるガラクタを物色し始めた。どうやら覚悟を決めたらしい。しかし俺は、そんな覚悟など求めていない。よって制止しようと考えたが、生徒会長が背中を向けたことにより、彼女の臀部と脚部の接合部があらわになった。そのため、少しばかり鑑賞することにする。


 充分な肉付き。しかしシッカリと張りがあり、たるんではいない。他の部分と同様に肌はキメが細かく、蛍光灯の光を柔らかく反射している。そして生徒会長が動く度に、僅かな揺れが生じている。なんという芸術的な尻だろうか。


「おい! ボサッと突っ立っていないで貴様も手伝え!」


「あ、はい」


 そうして生徒会長の傍に寄り、俺もガラクタを漁ろうとしたところで、はたと気付く。


「あの、襲ったりしませんけど」


「そうなのかっ!?」


 振り返った生徒会長は、愕然とした表情を見せた。


 ・・・襲って欲しいんですか?



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