第3話元へは戻れない
3度目の異世界人生を送ることになったムスイ。
とは言っても、モコモコからは嫌われてしまっている。どうやっても結婚できる自信が無い。
・・・・・いや、よく考えてみるとそうではない。赤ん坊に戻ったのだから、前回の失敗は全て帳消しになったということだ。それなら、モコモコとまた結婚できるじゃないか。私はそう確信した。
よし、まずはここがどこなのか、状況を確認しなければ。
「父さん、ここはどこの村なんだい?」
三度目の生ともなると、生まれてすぐに喋ることだって可能だった。
「・・・・・お・・・・・うぉ・・・・・こ、ここはメイデン村だけど・・・・・・。」
父親は動揺している。母親もガタガタと震えている。しかし、そんなことよりも早く情報が欲しい。
「地図を見せて。現在地を知りたいんだ。」
「わ・・・・・、わかった。」
父さんは素直に応じてくれた。
メイデン村は・・・・・ココか。アンス村とは500kmも離れているな、チクショー! また遠くなりやがった。でも、3度目ともなると赤ん坊でもかなりの能力を発揮することができる。頑張ればすぐにモコモコと会えるはずだ。
「ありがとう、父さん」
そういって、私はベットから降りた。そして、テーブルの上に置かれている私用の服を着る。さらに、首にタオルを巻いた。
「それじゃー、いってくる。」
「ど、どこへ?」
「もちろん、ロードワークだよ。」
「・・・・・いってらっしゃい」
両親は抱き合い、怯えながら、私を送り出してくれた。
私は走った。モコモコと三度の再会を果たすためならなんだってやってやる。とにかく、ひたすらに体を鍛えた。魔物対策の剣や弓の稽古もバッチリさ!
村には美少女がたくさんいたようだ。アイドルグループが幾つもつくられ、近隣の村や町からは追っかけがやってくる。
そして、アイドルたちはムスイにメロメロだった。この村の中心はムスイだった。
しかし、ムスイはアイドルたちに一切興味はなく、ただ体を鍛え、モコモコの元へ向かう準備を続けた。
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12歳になったムスイは、家を出、アンス村を目指した。約500kmの長い旅だ。体を鍛えてきたということもあり、4日でアンス村へとたどり着いた。
モコモコはどこに・・・・・、いた! やっぱりこの花畑にいたか! 私は木の陰に隠れて覗き見る。やっぱり私のモコモコは可愛いな~、も~・・・・・。
いやいや、いかんいかん、落ち着け落ち着け。前回は興奮のあまりモコモコを恐怖のどん底に落としてしまった。同じ過ちを犯してはいけない。今回は冷静に冷静に対応するんだ。そうすれば、間違いなく私とモコモコは結婚できる。
私は隠れながら木を一本、一本と移動した。そして最もモコモコに近い木にたどりついた。モコモコまで後10mと言ったところか。私は顔を半分だしコッソリと見つめている。
そして・・・・、おぉ! モコモコが私の存在に気づいてくれたぞ!
「!!!!!!!!!!」
・・・・・予想外の反応だった。モコモコの顔は驚きと恐怖の表情へと変わっていった。
(・・・・・え? 何その反応? なんでそんなに驚いたの? なんで怖がってるの? 初対面ですよね? 私、そんなに怖い顔してる?)
ムスイは意味が分からない。
モコモコはガクガクと震えながらゆっくりと立ち上がった。そして、ゆっくり、ゆっくりと後ろに下がり始めた。まるでクマにでも遭遇したかのような対応だ。
(そ、そうか! 顔半分で覗いているから不審に思っているんだ! 体を全部出せば安心してくれるはずだ!)
私は隠れるのを止め、モコモコに全身を披露した。
(ババ~ン!)
「や、やあ、こんにち・・・・・」
「!!!!!!!!!!」
モコモコの恐怖はさらに悪化したように見受けられる。口を大きく開け、半べそ状態となり、身をそらして恐怖している。
「ヒィ、ヒィ、ヒィ・・・・・おじいちゃん・・・・・おばあちゃん・・・・・」
呼吸が荒い。生命の危機を感じている。それが痛いほど伝わってくる。そんなモコモコをみて、私はまったく動けない。
泣きながら「ヒィヒィ」言って後ろに下がり続けていたモコモコは、クルっと反転すると、ガクガク震えながら必死になって家に走り出した。そのスピードがあまりにも遅く、あまりにも可哀そうで、私は後を追うことができなかった。
「もう・・・・・駄目なのか・・・・・」
私はその場に立ち尽くし、逃げて行ったモコモコの方向を見つめながら、涙を流した。リセットされているはずなのに・・・・・どうしてこうなったのだろうか・・・・・。
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野宿をしながら、次の日も、その次の日も遠くからモコモコの家を見守った。一週間たってもモコモコは家から出てこなかった。さすがに、認めざるを得ない。
「モコモコと結婚するのはもう無理なのか・・・・・。すまなかった、モコモコ。もう二度と会いに来ないよ・・・・・。」
そう口ずさんだ私は、その場を後にした。そして、決して振り返ること無く、アンス村から立ち去るのであった・・・・・。
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が、すぐにムスイは戻ってきた。「村の開拓」をするのを忘れていたからだ。この村は貧しい。開拓しておかないとモコモコが食べ物に困ってしまう。これは必ずやっておかなければいけない必須事項だ。
昼間に行動すると見つかってしまう。私は夜に活動することにした。
・「水まき用の推し車」
・「動物」を捕まえて村に提供
・「果物」も取ってきて提供、種を村の近くに植える
・「池」を作る
・「川」の水が村の近くにやってくるようにする
そんなことをやりながら、ムスイは夜、モコモコの部屋の窓にやってくるのが日課だった。窓ガラスから中を覗く。モコモコが寝ている。私のモコモコがグッスリ寝むっている。毎日1時間、モコモコが寝ているのを見に来ることだけが私の生きがいであった。
そして、森の開拓が終わった。一人でやったので3年かかったが、やり切った。大変だったとは思わない。むしろ、充実した3年間だった。ムスイは15歳になっていた。
しかし、もう森の中でやることは何も残っていない・・・・・。
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開拓が終わってしまったことで、いよいよ、モコモコとの別れの時がやってきた・・・・・。
ムスイは夜、いつものようにモコモコの部屋の窓へとやってきた。窓ガラス越しに中を覗く。
「今日でお別れ、お別れだから!」
そう言って、ムスイは窓を開けて、部屋の中に侵入。そして、モコモコの枕元へ。
「ああ、何度見ても可愛い。最高に可愛い。これでもう永遠にお別れだなんて・・・・・グググ・・・・・」
ムスイは涙を流す。
「これが最後、これが最後だから!」
そういうと勢いそのままに、モコモコをガバッと抱きしめ、ほっぺをスリスリした。
「ああ、もう、もう会えなくなるだなんて、なんて悲しい現実なんだ!!」
涙を流しながらほっぺスリスリを続けるムスイ。しかし・・・・・
「ぅ・・・・・う~ん・・・・・・・・・・・。」
ヤ、ヤバイ、起きそうだ。ムスイは慌ててその場から逃げ出した。
「・・・・・ハッ!!!」
モコモコはとてつもない悪夢にうなされていたかのようにベットから飛び起きた。今部屋の中に誰かがいたような? とてつもない恐怖心から汗が止まらない。周囲を見渡す。誰もいない。
モコモコは安心して一息つくが・・・・・・・
窓「ヒュ~・・・・・」(←窓が全開でカーテンが風でなびいている)
モコモコは凍り付く。確かに閉めたはずだ。そもそもここ数日は開けていない。自然にあくはずがない。開いたことなど一度もない。なぜ全開になっているのか・・・・・。誰かが・・・・・いた・・・・・???
「ん・・・・・んん~~~~・・・・・!!!???」
モコモコは恐怖を通り越して、泣けばいいのか、笑えばいいのかわからない表情となった。そして・・・・・・・
「ギャーーーーー!!!」
遠くを走って逃げるムスイの元まで聞こえてくる断末魔が村中に鳴り響いた。
「ごめん! ごめん! 本当にごめん! もう二度とこの村には来ないから!!」
ムスイはそう熱く誓い、村から出て行った。
だが、たぶんすぐに戻ってくるだろう!!!
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生きる理由を失ったムスイは途方に暮れた。最後の最後まで「モコモコと仲良くなれるのでは」という希望を持ち続けてきたが、その線はもうない。新しい未来を考えなければいけない段階だ。
「はぁ・・・・・」
ムスイは深いため息とともに、モコモコとの未来を断ち切って、今後のこと考えた。
おさらいすると、この世界は異世界だ。
・剣と魔法のファンタジーの世界
・魔物がいる、魔族がいる、魔王がいる
「う~ん・・・・・そういえば、町に冒険者ギルドがあると聞いたことがあるな。行く当てもないし、しばらくは冒険者としてノンビリ過ごすか・・・・・。」
ムスイは近くにある町へと向かうことにした。
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