第4話シュートとサクヤ

モコモコを諦め、ムスイは冒険者になるため一番近くにある町にやってきた。


やはり、村と比べると建物が立派だな~。人も多くてにぎやかだ。武器屋や防具屋もあるのだろうか? 冒険者になるなら覗いてみたいところではあるが、このあたりは魔物もいないし、凶暴な動物もあまり見かけない。しばらくはこのボロイ剣と弓で大丈夫だろう。


とりあえず、冒険者ギルドに向かうことにした。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


ここが冒険者ギルドか~。ムスイは中へと入っていった。


中に入ると、他の冒険者たちがチラチラとこちらを見ている。見かけない冒険者の品定めをしているかのようだ。田舎育ちの私にとって、こんなに人が集まっている場所は居心地が悪い。さっさと受付の方へ行く。


「あの~・・・・・」

「冒険者ギルドは初めての方ですか? 登録ならこちらの紙に必要事項を記入してください。文字は書けますか?」

「大丈夫です、これに記入すればいいんですね。」


私は紙を受け取り必要事項を記入した。


・名前:ムスイ

・年齢:15歳

・出身地:アンス村

・職業:弓

・パーティー:無し


本当は「メイデン村」が出身地なのだが、私の魂が「アンス村」だと言っている。まぁ、受付もいちいち内容の確認などしないだろう。


「これでいいですか?」

「待ってくださいね・・・・・、はい問題ありません。それでは次に能力チェックをいたします」

「・・・・・能力チェック?」

「はい。ムスイさんの剣士レベル、弓使いレベルなどがわかりますよ」


わ、わからなくてもいいんだけどな・・・・・と思ったけど、そういうわけにもいかないようだ。私は奥の部屋に連れていかれる。


「それではこの水晶に手を当ててください。そうすると、この石板にムスイさんの能力が表示されます。」

「はい・・・・」


ムスイは推奨に手をかざした。すると・・・・・


◆ 99:村人レベル

◆ 92:弓使いレベル

◆ 69:剣士レベル

◆ 01:魔法使いレベル


「えぇ・・・・・こ、これは・・・・・」


受付さんが戸惑っている。異世界人生3週目だからな。メチャクチャ頑張ってきたし。私は笑ってごまかすことにした。


「村人レベル99ってマックスになってますね、ハハハ」

「い、いえ、これでは99までしか表示できないということです。本当は100以上が存在するんです。しかし、100は勇者設定なのでありえないのですが・・・・・」


どうやら村人の勇者になれそうだ。


「あ、あの、この件は内密に・・・・・」


そう言って、私は受付さんにワイロを渡した。


「いいんですか? これをギルドの上の方に報告すれば、ムスイさんは大きなお城の近衛兵だって夢ではありませんよ?」

「いや、そういうのどうでもいいですから。」

「そうですか。それでしたら・・・・・」


受付さんと話し合って、数値は適当にしてもらった。


◆ 55:村人レベル

◆ 49:弓使いレベル

◆ 47:剣士レベル


このギルドのトップクラスが50を超えてくるみたいなので、これくらいにした。


「うん、こんなもんかな」

「魔法使いの職業があるのですから魔法が使えます。魔法の勉強はしないんですか? うちのギルドでも1人だけのレアな職業ですよ?」

「そのうち検討します」


冒険者になりたいわけでは無いので、魔法など勉強する必要はないものでね。


「それで、これから私はどうすればいいんですか?」

「そうですね。あそこの掲示板に依頼が貼られてありますので、自分で出来そうなものを選び、受付の方に持ってきて依頼がはじまる、ということになります。依頼を達成できたら、受付に報告し依頼終了、報奨金が支払われる、というシステムですね。」


なるほどなるほど。


「でも、ムスイさんはお一人のようですし、ここで仲間集めをしてからの方がいいと思いますよ。ギルドには一人では難しい危険な仕事もたくさん来ますから。」


仲間集めか。考えてもみなかった。


「わかりました。そうします。ありがとうございます。」

「いえいえ。」


そう微笑む受付さん。


「でも、ムスイさんってちょっと変わっていますね。」

「え? 何がですか?」

「ん~、なんというか、ムスイさんって私のことを男として見ているような雰囲気なんですよ。今までそんな風に診られたことが無くて、正直驚いちゃいました。」

「そ、そうですか? いや~、そんなことは無いと思うんですけどね~、ハッハッハ。」

「う~ん・・・・・」


・・・・・鋭い人だ。今までバレたことがないのに。そして、この人は女だったのか。


そう、実のところ私は「性別の判断ができない」というタイプなのだ。相手が男なのか女なのかまったくわからない。普通の人は見ただけで相手が男か女かわかるようだが、私はまったくわからないのだ。


言うなれば、私には周りの人間が「柴犬」のように見えている。柴犬の顔を見てもオスなのかメスなのか判断できない。判断する方法は「チン●ン」を確認するしかない。しかし、人間は服を着ている、これでは「チン●ン」を確認できない。どうやって性別を判断しろというのか。顔だけで性別を判断できるなど、私から見れば神業である。


「まぁいいわ。とにかく冒険者として頑張ってね。」

「はい、ありがとうございます! では!」


なんとか逃げ切れた心境だ。さてさて、仲間を集めなければ・・・・・。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


壁にもたれながら、周囲の人々をうかがう。強そうで役に立ちそうな者もいるが、性格に難がありそうな奴らばかりだ。


強いだけでは駄目だ。私の言うことを何でも聞いて、しっかりと働いてくれる素直な奴でなければ困る。そういう適任者はいないものか。


・・・・・次の瞬間、外から異様な気配を感じた。今までまったく感じたことが無い気配だ。何かヤバいものがこちらに向かってきている。なんだ!? 一体何者だ!? 私は高鳴る鼓動を抑えつつ入り口に注目した。


そこから入ってきたのは・・・・・「冒険者」が2人。異様な気配を発していたのは「後ろからついてきている奴」だ。なんだあの無数に伸びてきている触手の様な、手の様なニョロニョロは!? さすがにヤバすぎて冷静さを保つのが困難だ。


だが、なんとなくわかる。私の直感が「あいつは魔法使いだ」と言っている。さっき受付が「魔法使いが一人いる」と言っていたが、おそらくコイツだろう。


しかし、魔法使いってこんななのか? 私も魔法の勉強したらこんなになるのか? い、嫌だな~・・・・・。


それにしても、あれだけ無数の手を生やして異常な状態であるにもかかわらず、周りの反応が特にない。あれはもしかしたら「魔力がある者にしか見えない」ということなのかもしれない。


この2人は掲示板の方に行き、依頼内容を確認している。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


魔法使いをよくよく観察してみると奇妙なことに気が付く。魔法がハッキリ見えている私にはわかる。こいつは「身長」と「胸」を盛っている。


①身長をカサマシしている


こいつの身長は・・・・・普通に見れば160cmほどではあるが、私にはわかる。こいつは魔法で身長をカサマシしている。「魔法の厚底ブーツ」を履いているという感じだろうか。25cmもカサマシしている。身長にコンプレックスでもあるのだろうか。


②胸を大きく見せている


胸の部位に「魔法のパッド」を入れている。胸が大きく見えるように膨らましている・・・・・。何がしたいんだ、こいつは・・・・・。


魔法使いは掲示物を見るふりをしながら、無数の「魔法の手」を使って、冒険者たちを触りだした。・・・・・正確には、「股間」と「胸」を触りだした。


オイオイオイオイ・・・・・今度は一体何をやり始めているんだ!?


ん?・・・・・「股間」を・・・・・触る・・・・・そうか! 性別を確認しているんだ! 確かにあそこをチェックしなければ男か女かわからない。全裸にしなければ性別確認できないところだが、触れば性別はわかる。さすがにあれだけ触るのは倫理的にどうかと思うが、あいつは魔法を使ってバレないようにやっている。天才か? 上手いやり方だな。


私は感心した。


そして・・・・・「胸」か。そういえば、モコモコは胸が膨らんでいたな。なるほど、胸で性別を確認する方法もあるということか。股間は触らないと確認できないが、胸の大きさなら服の上からでも確認できる。そうか、胸を見れば性別を判断できるということか。この魔法使いの行動はなかなか勉強になる。


私は感心した。


私は受付さんの胸を見る。なるほど、自分で女だと主張するだけのことはある。女だな。


ムスイは他の冒険者もチェック。


みんな胸が無い。うむ、男だな。


あのマッチョでガタイのいい奴は胸が大きい。女だな。(注意:違います) しかし、胸丸出しで外を出歩くとは。まったく、都会の女はハレンチでけしからん。


あの魔法使いと一緒にいる剣士は、男だな。


魔法使いの方は・・・・・、男だな。(注意:違います) 胸に「魔法のパッド」を入れて女のふりをしているということか。何をしたいのかよくわからんが、まぁ、気づかないふりをしておこう。


というか、あの魔法使い、他人の股間を触り過ぎだろう。触り方も熱心過ぎるだろう。丁寧すぎるだろう。

おい!(股間ズーム小)

おい!(ズーム中)

おい!(ズーム大)

バレて無いと思ってやりたい放題だな。

しかも無表情で!(顔ズーム大)


む、今度は受付の女を触るのか。今度は熱心に胸を触っている。触り過ぎだろう。

ん? 自分の胸を気にしている?(絶壁) 無表情が崩れた?

怒っている?(顔ズーム小)

怒っている!?(顔ズーム中)

怒っている!!(顔ズーム大)

一体どうした!?

まったく、都会の男が考えることはよくわからん。(注意:男ではない)


「ど、どうしたサクヤ? お前ってギルドに入ると時々不機嫌になるよな?」

「・・・・・別に。」(ほっぺを膨らまし不機嫌顔)


とりあえず、性別の確認方法はわかった。魔法使いの「魔法の手」はうざいから極力意識しないようにするとしよう。


● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇


見た目は小さいし、能力もそれなりにありそうだ。あの2人なら私の仲間にはもってこいだな。私は2人に声をかける。


「やぁ、君たち。私の仲間になってくれないか?」

「ん? 仲間?」

「そう、私がリーダーで、君たち2人は私の指示に従ってもらう。」


ザワザワザワ・・・・・。他の冒険者たちがざわめき始める。


「ちょ、ちょっとムスイ君。シュートくんとサクヤちゃんは若いけど、このギルドではトップクラスの冒険者なのよ?」


焦る受付さん。しかい、ムスイは余裕だ。


「大丈夫、私の方が強いから。」(ドド~ン)

「・・・大した自信じゃねぇか。なら勝負するか?」

「ああ、別に構わんが。」


女魔法使いサクヤにによる「魔法の手」の濃厚なチェックが入る。


(やめろ、いい加減にしろ、マジでやめろ、タプタプすんな)


ムスイは腕を組み、顔を上に向け、全力でサクヤのチェックを耐えきった。サクヤはムスイを見て「おぉ」と感心している。


「では、行くぞ!!」

(ドカ!バキ!ボス!ボカ!)(ジャイ●ンがの●太を殴る風)


勝負はムスイの圧勝だった。ボコボコにされ地面にひれふすシュート。口を両手で押さえて驚く魔法使い。誰かさんのせいで手加減しそこなっちまったぜ。


「つ・・・強い・・・・・。まさかこれほどとは・・・。」

「す、すまん。ちょっとやり過ぎた。」


マジで申し訳ないと思った。


「いや、いいさ。お前の方が強いというのはよくわかった。俺たちとパーティーを組みたいんだろ?」

「あ、ああ。仲間になってくれるのかい?」

「俺としても強い仲間は大歓迎だ。サクヤもそれでいいだろう?」

「うん。」

「それじゃあ、これからよろしくな。」


シュートはムスイに手を差し出す。あれだけボコボコにしたのに素直に許して、しかも仲間になってくれるとは。なかなか心の広い男のようだ。


「ああ、よろしく。」


ムスイはシュートと握手をし、サクヤとも握手をした。これからこの2人が私の仲間だ。仲間ができたことで、やれることも増えるだろう。


さぁ、今から冒険の始まりだ! 最初の目的地は、もちろん「アンス村」で決まりだ!!!

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