第2話ストーカーなんかじゃない
転生後に18歳で死んでしまったムスイだったが、女神さまが何故か人生をやり直させてくれることになった。理由はわからないが、そんなことはどうでもいい。とにかく、死に別れたモコモコと会いたい。ただ、それだけしか考えられなかった。
しかし・・・・・、家の外に出て気づく。ここは「アンス村」ではない。なぜ違う村なのか? 時間が戻ったのではないのか? 状況がつかめない。いますぐにでもモコモコと会いたいのに・・・・・。
私はとにかく腹が立って、両親に詰め寄った。
「父さん! 母さん! ここは一体どこなんだ! アンス村はどこにあるんだ!」
生まれて一週間の自分の赤ん坊が、もう立ち上がって、しかも普通に話している。両親は困惑した。
「ム、ムスイ・・・・・いつから喋れるようになったんだ?」
「も、もう歩けるのね・・・・・・。すごいわ・・・・・。」
両親は平常心を保てるギリギリラインで戦っている。
「そんなことはどうでもいいんだよ! ここがどこなのか教えてくれ!」
両親は顔を引きつらせながらも、地図を用意して教えてくれた。
ここはペース村だった。そして、アンス村はココ。距離にして約300kmも離れている。いや、距離よりも問題なのは、間に魔物が生息する地域があったことだ。アンス村にいくのは赤ん坊の私では不可能。私は絶望した。
いや、絶望している暇などない。私のモコモコへの愛は本物だ。例え世界が私とモコモコを引き裂いたとしても、私は必ずたどり着いて見せる! モコモコの元へ! 私はそう熱く心に誓った。
その日から、私は「バックランジ」「スクワット」「腕立て」「腹筋」を日課とした。そして魔物対策として「剣」や「弓」の練習もおこなった。両親は抱き合って震え上がっていたが、だんだん慣れてくれた。素晴らしい両親だ。
15歳になった時、私は旅立った。もちろん「アンス村」に行くためだ、両親に話すと「お前なら大丈夫だろう」とあっさり許可してくれた。理解のある両親で良かった。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
旅を始めて3日、私はアンス村へとたどりついた。私がいなかったため開拓はされていない昔の風景ではあったが、間違いなくここはアンス村だ。
モコモコ、モコモコはどこだ!! 私は村中を探し回った。そして・・・・・いた! モコモコだ! 間違いない! やっと! やっとモコモコの元にたどり着いた!!!
モコモコは花畑で裁縫をしていた。モコモコに近寄る私。風で花弁が舞い上がる。私とモコモコの奇跡的な再会を世界のすべてが祝福してくれているかのようだった。
「モコモコ・・・・・会いたかった・・・・・、会いたかったよ!」
私は涙を流していた。モコモコは急な展開に目を丸くしている。
「あ、あの・・・・・、あなたは誰ですか?」
モコモコは戸惑っていた。当然だな。モコモコは私の存在など知らずに生きてきたのだから。私は涙をぬぐいながら、モコモコにわかりやすく説明した。
「そうだね、今回の生では初対面だからわからないだろうけど、前世で私とモコモコは夫婦だったんだよ。18歳で2人は結婚し、私たちの未来はこれからだって時に、私は病気になってしまってね。闘病生活もむなしく、命を落としてしまったんだ。あの時、私の手を握って泣きじゃくっていたモコモコの顔を今でもしっかり覚えているよ。だけどね、奇跡が起こったんだ。まるでリセットボタンが押されたかのように、再び人生をあたえられたんだよ。どうしてそうなったのか、理由はわからない。だけど、私とモコモコはこうやって再会することができたんだ! まるで運命の赤い糸が私とモコモコを引きつけたように・・・・・。私はこの感動を一生忘れない。モコモコ、今回の生でも私と結婚してくれるよね?」
そう熱弁した。
しかし、モコモコは困惑している。目の前にいる男が何を言っているのかまったくわからなかったからだ。
しかし、ただ一つわかったことがある。それは「この人はヤバイ」ということだ。
「あ、あの・・・・・、私、用がありますので・・・・・」
そういってモコモコはその場から走り去ろうとした。・・・・・が、ムスイは興奮を抑えきれない。モコモコを引き留め、腰に腕を回し、優しく語りかける。
「何の用があるんだい? 私に相談してくれ。モコモコのためならなんでも力になるよ。」
「ヒ、ヒ~!!!」
モコモコは怯えていた。しかし、今のムスイにはモコモコの全てが愛おしい。
「誰か助けて~!!!」
モコモコはムスイの腕を振りほどくと、断末魔の様な叫び声を上げて逃げ出した。そして、その悲鳴を聞いて、村人たちが集まってくる。
「どうしたんだ、モコちゃん!」
「おい、お前は誰だ! モコちゃんに何をしている!」
幼いころからの顔なじみだったアンス村のみんなが集まってくる。
「いや、違うんです。私はモコモコに何も危害を与えるようなことはしていません。皆さんも覚えていないと思いますが、私は以前この村で育って、モコモコと結婚して・・・・・・・」
言うだけ言って、「しまった」と気づいた。こんなことを言っても通じるはずがない。モコモコと再会できた嬉しさから冷静さを失ってしまっていた。
「こいつはヤバイな」
「とりあえず、牢屋にぶちこんでおこう」
こうして私は無実の罪で牢屋に入れられてしまった。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
牢屋に入れられているムスイ。それにしても、貧弱な牢屋だな~。ま~、使う機会がない平和な村だったからな~。
とりあえず私は夜になるのを待った。そして、土の壁を掌底で破壊し脱獄した。
よし、モコモコの元へ向かおう。しかし、モコモコは私と会ってくれるとは思えない。誤解されているし・・・・・。一体どうすれば・・・・・。
そう悩んでいたところ、誰かがこっちに向かってくる。私は建物の陰に隠れ、様子をうかがう。
ここにやってきたのは・・・・・ショールを羽織ったモコモコだった。牢屋の扉の前まで来ると、ソワソワしながら中の様子をうかがっている。どうやら私のことが心配になって様子を見に来てくれたようだ。
(ううう・・・! なんて、なんて優しい奴なんだ、お前は!)
感動のあまりに涙がちょちょぎれる。
そして、思わずコツンと石を蹴飛ばしてしまった。
「だ、誰?」
ムスイは茂みから出て行った。嬉しくて嬉しくて、涙が止まらない。
「モコモコ・・。。・私だよ・・・・・、ありがとう、ありがとう~・・・・・!」
そう言いながら、涙も拭かず、ゾンビのように腕を伸ばしながらモコモコの元へと向かった。
「ヒ・・・・・ヒ~!!! 助けて~~~!!!」
モコモコは全速力で走って逃げた。
「待って、待ってくれ~! 誤解だ、誤解なんだ~!」
ムスイも全速力で追いかけた。ムスイの方が余裕で速い。ムスイはモコモコを捕まえると、後ろから抱きしめ、顔にスリスリしてしまった。
「うぎゃ~~~!!! 助けて~~~!!!」
ムスイにはモコモコの断末魔は聞こえていない。
「やっと、やっと再会できたね。」
そういって、顔にスリスリし続ける。
モコモコの断末魔を聞いて村人たちが集まってきた。
「なにやってる!」
「こいつ、牢屋から脱獄しやがったのか!」
「モコちゃんから離れろ!」
「このストーカー野郎め!」
・・・・・え? ストーカー? 私が? 何やらとんでもない誤解を受けている。
「うえ~ん! おじいちゃん! おばあちゃん!」
「お~よしよし、怖かったね」
「もう大丈夫だよ。」
そういっておじいちゃんとおばあちゃんはモコモコを抱きしめる。
「いや、まってください。誤解です。碁会所なんですよ。」
「なにがゴカイショだ! わけわからんこと言ってないで、立て!」
こうして、ムスイはまた牢屋に入れられた。今度は鉄の鎖につながれてしまった。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
次の日の朝。一晩寝て、さすがにムスイも冷静になった。
色々と対応がまずかったと反省せざるをえない。もう少し自然に、もう少しソフトに対応すべきだった。モコモコを怖がらせてしまったし、村の人たちにストーカーだと誤解されてしまった。なんとかしなければ・・・・・。ムスイは必死になって打開策を考える。
お昼になって、牢屋にモコモコがやってきた。村長とおじいちゃん、おばあちゃんも一緒だった。が、そんなことはムスイにとってはどうでもよかった。
「おお~! モコモコ!!」
私はとにかく喜んだ。
しかし・・・・・、様子がおかしい。モコモコが泣いている。真剣な面持ちだった。さすがに喜んでいる場合ではない。私は息をのむ。
「お、お願いです・・・・・。もう私に付きまとわないで下さい。」
「・・・・・え? い、いや・・・・・、私は君を愛していて・・・・・その・・・・・なんというか・・・・・・・・」
予想を超えた事態に、私も何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
「私に好意を持っていただけるのはとてもうれしいんです。で、でも・・・・・、怖いんです。とても怖いんです! お願いです! もう私に近寄らないで下さい! 抱き着いてこないでください!! お願いします!! お願いします!!」
そういってモコモコは地面に崩れ落ちた。マジ泣きであった。魂の叫びであった。壮絶な訴えであった。私はこんなにもモコモコを苦しめてしまっていたのか・・・・・。私は放心状態となり、返事をすることもできなかった。
モコモコが帰った後、私は生ける屍となった。3日間、食事をすることもできなくなり、牢屋の隅で体育座りのまま固まっていた。
モコモコも心配して、毎日牢屋に駆けつけ私に何かを言っているようだった。しかし・・・・・、私の耳にはもう何も届いていなかった。
このままここで死ぬんだろうなと思っていた。しかし、ここで死んだらモコモコが責任を感じてしまう。私は鉄の鎖を引きちぎり、壁を破壊してヨロヨロと夜の森の中へ入っていった。
そして森の奥へいき、誰にも発見されない場所をみつけると、そこで横になった。そして、そこから一度も動くことは無く、2度目の生涯を終えた・・・・・。享年15歳であった。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
「ム、ムスイさん、大変な人生でしたね・・・・・」
「・・・・・ああ、女神さまですか」
また、この空間に戻ってきたのか。
「あ、あまりですね、一人の女性に執着しすぎるのもどうかと思いますよ」
「・・・・・・・・・」
ムスイは返事をしない。
「つ、次の村にはですね、とっても可愛い娘さんがたくさんたくさんいるんですよ。ほら、この娘とか、この娘なんかもいいですね。色々な娘がいてより取り見取りです。きっとムスイさん好みの女性が見つかりますよ」
女神さまはお見合い写真を山のように用意していた。村のキャパを超える数だった。よくわからんが、とても必至だ。
「・・・・・女神様」
「は、はい」
「モコモコの代わりなどいません」(ドド~ン)
「・・・・・(汗)」
女神さまは困っている御様子だった。
「また、赤ん坊に戻って人生をやり直せるんですか?」
「も、もちろんです」
「わかりました、次こそは必ず」
「あ、あのですね、ムスイさん、次の生ではしっかりと周りを見渡してくださいね。素敵な娘がたくさんいますからね。絶対、絶対ですよ。それでは、頑張ってくださいね」
ムスイはモコモコのことしか考えていなかった。
● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇
◆ムスイ、3度目の生
「ムスイ、お父さんだよ~」
「お母さんよ~」
そして、世界はリセットされ、3度目の生がはじまる・・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます