第2話 あなたに美と健康を

『あなたに美と健康を NPO法人日本雪輝茸協会』


 こんなのぼりがはためく駅前のロータリーの一角は、透けるような白い肌の美女三人が何かの試食?をやっている様だ。


 その華やかなオーラに老若男女問わず引き寄せられている。


 何とは無く覗いてみるとナタデココに似た何かのデザートに皆、舌鼓を打っていた。


「こちら、カットした“雪輝茸せっきだけ”を散りばめたナタデココ風デザートで~す!」


「本日は無償で『雪輝茸のタネ』と『育て方のコツがわかるブックレット』を差し上げておりま~す!」


 呼び込みに惹かれてフラフラと近付くとデザートが盛られた小鉢とスプーンを手渡された。


「美味しい!!」


 口に拡がる爽やかな甘さと白桃の様なふくよかな香り、つるんとした食感!!


「シロップも香料も何にも使っていない“雪輝茸”だけの味と香りなんですよ! この“雪輝茸”はココナッツミルクや豆乳や牛乳で簡単に育てる事ができるんです! そして食べるだけで、体の全てが浄化され、美しくなれるんです」


 しかし私は、素敵なお姉さん達に囲まれて酷く気遅れしてしまう。


「デザート、とっても美味しいですけど……こんな真っ黒の私には無縁です」


「そんな事ないわよ! 私もつい一年前まではソフトボールのキャッチャーやっててね。真っ黒だったし体重も今の倍あったのよ!」



 いつもなら、こんな言葉に気持ちが揺らぐ事もなかったのだろう。


 しかし深い挫折を味わった今の私には、この“雪輝茸”が何か縋る事できるまばゆいばかりの1本の糸の様に思えたのだ。

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