第3話 現代怪奇研究所
現代怪奇研究所は都心の高層ビルの中にあった。
現代の最先端を行く高層ビルと、その中にある現代怪奇研究所・・・何という組み合わせだ!
私は現代怪奇研究所の所長室に通された。所長は
私の話を聞き終えると、富樫は窓のところへ歩いていって、外を見やった。窓からは、はるか向こうまで広がったビル群と、その上に広がる冬の青空が見渡せた。
窓の外を見ながら、富樫が言った。
「多元宇宙って言葉をご存じですか? 多次元宇宙とも言いますが・・・」
私は首をひねった。
「多元宇宙?」
「ええ、そうです。理論物理学の学説の一つです。この世界は一つではなくて、同じような無数の世界が重なって構成されているというものです」
私には富樫の言うことがまるで理解できなかった。思わず聞き返した。
「同じような無数の世界ですか・・・?」
「そうです。それらの世界の一つ一つに、あなたや私がいるんですよ。でも、それらの世界は全く同じではなくて・・・少しずつ違っているんです」
富樫が私を振り向いた。
「あなたのお話を伺う限り・・・どうもあなたは、私たちとは違う、別の世界からここに来られたようだ」
私はあんぐりと口を開けて富樫を見た。
「別の世界ですって?」
別の世界? そんなものが本当にあるのだろうか?
私の言葉に、富樫がゆっくりと頷いた。
「ええ、そうです。別の世界です」
私は混乱した。
「では、あの・・・私とそっくりな男の死体は・・・誰なんです?」
富樫が私を見ながら笑った。
「まあ、ゆっくりと事態を整理してみましょう。ここで、混乱を避けるために・・・あなたが今までいた世界を『Aの世界』、そして、こちらの世界を『Bの世界』と呼ぶことにしますよ。で、・・・あなたが見た、あなたとそっくりな男の死体ですが、あれは、こちらの『Bの世界』のあなたなんです」
富樫の言葉に私は驚いた。
「あれは、『Bの世界』の私ですって? では、『Bの世界』の私は誰かに殺されたんですね? 誰が『Bの世界』の私を殺したって言うんですか?」
「それは・・・おそらく、『Bの世界』のあなたの奥さん、つまり、美咲さんです」
「美咲が? どうして?」
富樫が首を振った。
「そこまでは分かりません。でも、何らかの理由で、『Bの世界』の美咲さんが、『Bの世界』のあなたを殺して・・・死体をあなたのマンションの裏の山の中に埋めたんです。でも、それでは、殺人犯として捕まってしまう・・・それで、『Bの世界』の美咲さんは、『Aの世界』のあなたを『Bの世界』に呼び寄せたんです。そうすると、『Bの世界』にはあなたが存在するわけなので、殺人は起きなかったことになってしまいます」
分かったような、分からないような、変な理屈だった。私はあわてて富樫に聞いた。
「・・・ちょっと、待ってください。そうすると、私がいた『Aの世界』では・・・今、私はどうなっているんです?」
富樫が私の顔を見た。
「おそらく行方不明ということになっているでしょう」
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