第2話 発見

 その日から、生活が始まった。


 ・・・というのは適切な表現ではないかもしれない。表向きは、妻の美咲との生活は、いつもと何一つ変わりなく続いていた。だが、あのとき以来、家の中の何かが少しずつ違っているのだ。ソファに置いてあったペンギンのぬいぐるみがコアラに変わっていたり・・カーペットの色が明るいベージュから落ち着いた茶色に変わっていたり・・テレビの位置が違っていたり・・


 家の中だけではないのだ。会社に行っても、家と同様に何かが少しずつ違っていた・・・


 そんな中で、私の生活は続いた。


 あの日から、三日ほど経ったときだ。休日の午前中に私は裏山を散歩していた。このマンションを選んだ理由の一つが、周囲に小高い山があることだった。周囲の山を歩くと、ちょっとした里山気分が味わえた。それで、休みの日には、私はよくマンションの周りの山を散歩していたのだ。


 その日はいつもと違って、かなり山の奥まで歩いてみた。すると、山道から外れたところに、土が掘り返された跡を見つけたのだ。


 何だろう?


 私は横に落ちていた枯れ木を拾って、少し土を掘り返してみた。


 すると・・・


 人間の手が出てきた。


 マネキンだと思った。しかし、私は眼を疑った。その手には・・私と同じ腕時計がはめてあったのだ。私は自分の腕時計を眺めた。間違いない・・・私が今しているのと全く同じ時計だ!


 この時計は、昔、仕事で海外に行ったときに、ガラクタ市のような屋台で買ったものだった。その屋台では、壊れた時計の部品を集めてきて、適当に新しい時計を組み立てて売っていた。だから、この世の中に同じものがもう一つあるとは信じられなかった。


 その腕時計の横には、私の知らない小さな黒い箱があって、箱の上半分が土の上に出ていた。私がさっき、マネキンの腕と一緒に掘り出したのだ。私はその黒い箱を手に取った。箱の表面には小さなディスプレイ画面のようなものがあって、ライトが付いていた。・・そこには、私のスマホの電話番号が表示されていた。


 私のスマホの電話番号?


 腕時計と私のスマホの番号を表示した箱・・・これらは一体何なんだ?


 私は木の枝を使って、マネキンを掘り起こしてみた。出てきたのは・・・私の顔と身体だった。


 その胸には深々とナイフが突き刺さっていた。


 それは・・・マネキンではなかった。生身の死体だった! それも、私の・・・


 私はその場に声もなく立ち尽くしてしまった。


 私が殺されて・・ここに埋められている・・・


 こんな馬鹿なことがあるだろうか?


 見てはいけないものを見てしまった気がした。


 私はあわてて、私の死体に土をかぶせた。

 

 その日の午後、私は都心に出て、現代怪奇研究所を訪問した。あの電車の中吊り広告に書かれていたところだ。

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