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倉田優子は防犯カメラのモニターを見た。
チャイムが鳴ったのでテレビを見ていた優子はダイニングキッチンへ行き、防犯カメラのモニターを見た。モニター越しに見る男は30代半ばと思われ、濃紺のフード付きパーカーにベージュ色のチノパンを履いている。
フードを被っていないので男の顔ははっきりと見えたが、テレビドラマや映画に出てくるモブキャラのように特徴がない。しかしその分、危険な雰囲気は感じられなかった。
「どちらさまですか」
「お宅の駐車場に人が倒れてるんですが、御家族のかたですかね?」
優子はモニターを凝視したが、カメラは玄関に立っている人間しか映せない。駐車場の方は死角になっていた。
「ちょっと待ってください」
思わず声が上ずっていた。何だろう。玄関に向かうとドアを開けてみた。
パーカーを着た男が駐車場の方を向いて立っていた。恐る恐るドアから首を出した優子は男と同じ方向へ視線を向けた。だがこのとき彼女が男の足元を見れば、弱い日差しのせいで薄ぼんやりとしている彼の影が一瞬のうちに大きなヤモリの形をした黒い影に変わったことに気づいただろう。
ヤモリの影は口から舌を伸ばした。舌の先端は小さな人型のような形をしていた。影は日差しが鈍いせいか目立たなかったが、その人型の部分だけはそこだけ絵の具を塗ったようなくっきりとした灰色に染まっていた。
見る者の生気を吸い取ってしまうような気怠い灰色だった。その灰色の人型が優子の影に潜り込んだ。
「変ねぇ。誰もいないわ」
首を傾げながら優子はドアを閉めた。ダイニングキッチンに戻ると、モニターをオフにした。それから居間に行き、テレビの画面に目を向けると韓流ドラマの続きを見始めた。
画面にはオモニと恋人との板挟みになって悩む二枚目の顔が映っていた。美形だがのっぺりとして特徴がない。主役というよりかはモブキャラの方が似合っていそうだった。
そういえばさっき誰かが玄関の前にいたような気がした。まぁ、たぶん気のせいだろう。
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