家族写真
木田里准斎
1
朝な朝な、東の空の紫色の雲の中に、一つの家族がありました。
まづお婆さんが目を覚まし、家中のお掃除を始めます。恰度その時女中は台所で、竈の下を焚き付けてゐます。お婆さんはお掃除が好きで、大好きで、時偶女中がお掃除をしようものなら直ぐまた自分がやりなほすといふふうでした。といつてこのお婆さんは、何もそれ以上に邪慳だといふのでもなく、
間もなく此の
やがて歯をみがいて、御飯を食べて洋服を着ると、子供は学校に、お父さんはお役所へ行くのでありました。
さてその学校が何処にあるやら、そのお役所が何処にあるやら、それは雲の中のことで分りません。
だが、朝な朝な、東の空の紫の雲の中に、此のお家があるといふことは確かで、皆さんが、やがて大きくなつて、皆さんのお父さんも亡くなり、お婆さんは云ふに及ばず、お母さんも亡くなつて、皆さんが今度はお父さんになつた時には、それがほんとだと分るのです。
中原中也『家族』
生暖かい風の中、枯れ葉が舞っていた。
11月も後半、そろそろ風の中にヒンヤリとしたものが混じっていてもいい頃だが、これも地球温暖化の影響なのだろうか。
どんよりと曇った午後、鈍い日差しを浴びながら沢渡和史は歩いていた。
今夜の宿はまだ決まっていなかった。ネカフェかビジネスホテルを泊まり歩くのも飽きていた。ファッションホテルやモーテルでもかまわないが、一人で入店すると目立つだろう。適当に見つけた女性といっしょに行けばいいが、面倒臭かった。
国道沿いの道だった。歩道には一定の間隔をおいてプラタナスの並木が植わっている。歩道に面した家並みのうちの一軒の前で沢渡は足を止めた。
薄緑色の外壁に茶色い寄棟屋根の家だった。二階建てで玄関の右手には乗用車一台分の駐車スペースがある。そこに車は停まっていなかった。
外壁の色と寄棟屋根の形が沢渡の実家に似ていた。あたりを見回し、近くに人がいないことを確認すると沢渡はその家の玄関へ近寄り、インターホンのスイッチを押した。玄関の軒に安物の防犯カメラが取り付けられていてカメラのレンズが沢渡を睨んでいる。
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