【難所】地底よりの恐怖

小路の少し行った所で相棒の帰りを待っていたみきおは足を引き摺りながらこちらへ向かって来るY-KNOの姿を見るや否や慌てて駆け寄る。


「お前足やられてるじゃねぇか!大丈夫か?」


「まぁなんとか…その内何処かで修理したい所ですが…」


「ここじゃ駄目だな、もう少し先に進んで資源を探そう、肩貸してやるから頑張って歩け」


「助かります…」


狭い小路をガチャガチャと音を立てて歩く度、周囲の壁に木霊する。


その反響音で何か巨大な存在を起こしてしまったとも知らずに。


そうして普通よりもかなりのローペースで歩く事数十分、最初に目覚めた場所と似たような景色の空間へと辿り着く。


「はぁ…はぁ…疲れたぁ…案外が最初の場所だったりして…」


「だとしたら朽ちた残骸で足のパーツを頂きましょうか」


「そうだ…」


みきおが話切る前に突如地面が揺れたかと思えば驚く間も無く地面が割れその中から途轍も無い巨体を持ったイモムシの様な姿のミュータントが現れた。


「おいマジか!ドローンに続いて今度は巨大ミュータントって…神様は今日俺達を殺すつもりなのか?」


「言ってる場合ですか!逃げますよ!」


Y-KNOが走り出した瞬間、異常な迄の反応速度でミュータントがY-KNOの進行方向へと突進し片方の逃げ道を塞ぐ。


「逃がすつもりは無いってか、Y-KNO!やれるか?」


「やれるやれないなんて今考える事じゃ無いですよ、やるしか無い!これ一択です」


Y-KNOが鎖分銅を回して臨戦態勢に移る。


「機械の癖して良い気合じゃねぇか!この戦い絶対生き残るぞ!」


Y-KNOがその言葉に応じる様にミュータントへ分銅を投げ付ける。


しかし足を悪くした為か踏ん張りが利かず何度攻撃を仕掛けても分銅はミュータントを軽く掠めて金属質な外壁へ衝突し甲高い音を響かせるだけだった。


「おいコラァ!何大事な局面で外してんだこのポンコツロボ!」


「仕方無いでしょうが!足の踏ん張りが利かないんですよ!」


「その被弾も含めてポンコツって言ってんだよ!」


一方のミュータントは先程の攻撃で憤りを覚えたのか外壁に身体を打ち付けて暴れ回っていた。


「あちゃ〜怒らせちゃいましたかね?」


──いや…何か様子が変だぞ?


「なぁY-KNO、当たっても外しても良いから何回かアイツに攻撃当ててみてくれ」


「え?まぁ良いですけど」


そう言ってY-KNOが分銅を振り回すとミュータントの頭部や外壁等幾つかの場所へと当たりその度にミュータントが音の鳴った周辺でのたうって暴れる姿が見えた。


「やっぱりな、コイツデカい音に反応してるよ」


「俺が音で引き付けておくからその間にビークルこっちに回せ、逃げるぞ」


「了解です」


みきおが瓦礫を投げ始めたのを合図にY-KNOがビークルに乗り込みアクセルを全開で回す。


しかし焦りからか握る手に予想以上に力が籠もってしまい老朽化していたビークルのハンドルが根本からボキッと折れる嫌な音が響いた。


「みきおさん!ビークルが壊れました!」


「マジかよ!こんな時に限ってなんで!」


予想外の事態によってみきおが声を大にして愚痴を漏らす。


その瞬間ミュータントの意識が瓦礫からみきおへと移行する。


「あ…ヤバ…」


ミュータントがみきおに突っ込む!


その直前辺りに眩い閃光が疾走ったかと思うとミュータントの巨体が大きく吹き飛ばされ、周囲に途轍も無い衝撃波が起こる。


「【内臓兵器】」


ミュータントが居た場所にはボディから煙を立ち込ませながらボロボロのY-KNOが未だ構えた状態で立っていた。


「みき…おさん…怪我は?…」


「俺は問題無いそれより今はお前だ!待ってろ役立たずのビークル解体して直してやるから!」


みきおが急いで駆け出そうとすると周囲に腹の底まで響く様な咆哮と地鳴りが発生する。


「嘘だろ…」


みきおの視線の先には身体の大部分を欠損しながらも何とか起き上がった様子のミュータントが居た。


そのまま戦闘が再度始まるかと思いきやミュータントはイモムシの様な身体で地面に潜り始めた、どうやら逃走するようだ。


しかし自慢の巨体で死に物狂いで地面を掘り進んだ事が起因し周囲の地形が大きく変化した事で瓦礫の雪崩が動けないY-KNOの元へと降り注ぐ。


「Y-KNO!」


直前でみきおが間に入る。


「みき…」


直後瓦礫が1人と一機を覆う。


少しして瓦礫の山から血まみれの1人の少年が出て来た、みきおだ。


その傍らにはY-KNOが抱えられていた。


「待ってろよ、今直してやるから」


そうしてみきおは工具を取り出し、解体したビークルの部品や残骸から頂戴したパーツを使ってY-KNOの修理を始める。


人並みには出来る方だが、けしてこういった作業が得意では無かったみきおだったがそれなりに付き合いの長い相棒を助ける為ともなれば自然と工具を握る手にも力が籠もりボロボロの自身の身体を奮い立たせて分からないなりにも作業を進めた結果、形だけで見れば元のY-KNOに近い物となった。


ボディが修復され電子回路が繋がったY-KNOが再起動されると目の前には顔色が悪いみきおが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。


「Y-KNO!」


「みきおさん…って!瓦礫の雪崩が!」


「心配無い…もう止まった…から…」


みきおがその場に倒れ込む。


「みきおさん!待ってて下さい!今治療を…」


「いや…良いんだ…」


「何言って…」


「これ…見てくれ…」


みきおの胸元には大きな瓦礫が貫通していた。


「あの…クソミュータントの…吹き飛ばした瓦礫…の所為で肺がもう…使い物にならないんだ…」


「俺はもう…助からない…」


「何を言ってるんです!助けるって言ったら助けるんです!」


「最期くらい主人の指示をしっかり聞け!このポンコツロ…ゴフッ!」


みきおがより一層激しく吐血する。


「最期の…ゴフッ!指示聞いてくれよ…」


「……分かりました…」


「お前は…これまで通り旅をして…他の人間でも…探してこの世界で…生き延びて…くれ…」


「あわよくば…存在する意味なんかも…見出してくれ…たら…嬉しいな…」


「貴方が居なくなった時点でこんなクソ世界に用なんて無いですよ」


「あぁ…そうだ…これも持ってってくれよ…」


みきおが最期の力を振り絞り電工ナイフを手渡す。


「墓はしっかりと建てますからね」


「頼む…わ…」


「さようなら…みきおさん…」


そうして生き残った一機は、今亡き相棒の生きた証を背にミュータントの破壊によって開けた地上への道を歩んでいった。


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