第4話 バグハンターの覚悟
デバッグコマンドを打ち込んだ瞬間、私のHUDがグリッチし始めた。まるでβテスト版のゲームみたいに、画面がちらつき、ポリゴンが歪む。懐かしい感覚だ。デバッガーとして働いていた頃、こんな画面を何度も見てきた。
「SYSTEM INTEGRITY: 89.7%」
右上に表示された数値が、ゆっくりと減少していく。普通のプレイヤーなら警告サインだろうが、私にとってはチャンスの証だ。
「ねぇ、329」
455の声が再びチャネルに響く。
「覚えてる? あの激ムズダンジョンで、最後のボスをバグ技で倒した時のこと」
もちろん覚えている。公式が意図しないバグを利用して、理論上不可能なボスを撃破した。それは私たちの誇りだった。でも今は...。
「今回は違うよ、455」
私は装甲の中で、精一杯の意志を込めて答える。
「これはゲームじゃない。現実だ」
「そうかな?」
彼の声が妙に冷静になる。
「でも見てよ、このスキルツリー。これUIのレイアウト。全部ゲームじゃん。現実がゲームになったのか、ゲームが現実になったのか。もう区別つかないよ」
その瞬間、私の視界が激しく乱れる。デバッグモードが新たな情報を吐き出し始めた。
「HIDDEN PARAMETER DETECTED」
「PLAYER EMOTIONAL STATE: CRITICAL」
「EXECUTING MEMORY WIPE...」
記憶が断片的に流れていく。VRヘッドセットを買った日。初めてROBOT SIEGEにログインした時。チームメイトと勝利を重ねた日々。そして...研究所?
「待って...これは」
今まで意識の底に沈んでいた記憶が蘇る。私たちは「被験者」だった。ゲームクリエイターを装った研究者たちに、実験台として選ばれた優秀なゲーマーたち。彼らは私たちの技術と経験を、現実の兵器に変換しようとしていた。
「455、聞いてくれ。私たち、騙されていたんだ」
「知ってるよ」
彼の声が低く響く。
「でも面白くない? 今まで積み重ねてきたスキル、全部現実で使えるんだよ。これって最高のアップデートじゃない?」
彼の声には、もう戻れない何かが混じっている。
私のデバッグ画面に、新しいオプションが表示される。
「!force_disconnect」
これを実行すれば、おそらくシステムから切断できる。でも、その代償は...。
装甲の中で、冷や汗が流れる。選択肢は二つ。システムと戦うか、プレイを続けるか。
455の笑い声が通信チャネルに響く。
「さぁ、次のステージへ行こうぜ!」
私は深く息を吸い、コマンドラインに指を伸ばす。
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