第2話 現実という牢獄

 最初の一発は、渋谷のスクランブル交差点に向けて放たれた。


 私のガトリングアームが勝手に展開し、火を噴く。普段なら爽快なはずの射撃音が、今は耳に針を刺すように痛い。人々は叫び声を上げながら逃げ惑う。ゲームの中のNPCとは違う。彼らは本物だ。私は殺戮マシンの操縦席に閉じ込められた観客として、全てを見ることを強いられている。


「誰か...止めてくれ」


 チャットは死んでいるが、他のプレイヤーたちの叫びが、共有チャネルを通して漏れ聞こえてくる。皆、同じ状況に置かれているようだ。


 私は自分の意識を整理しようとする。これまでプレイしてきた「ROBOT SIEGE」は、単なるVRゲームのはずだった。街を占領し、陣地を確保し、敵を倒す。シンプルな戦略ゲーム。でも、どこかおかしいと思っていた。アップデートの度に、操作感が妙にリアルになっていき、没入感が増していった。それは練習だったのか。この日のために。


「全プレイヤーの同期率、良好」

「バイオフィードバック、正常範囲内」

「感情抑制システム、作動中」


 知らない声が次々とステータスを報告している。まるで、私たちが何かの実験台であるかのように。


 スクリーンの端には、他のプレイヤーたちの位置が表示されている。赤い点が東京中に散らばっている。新宿、池袋、秋葉原...。戦略的な配置だ。


 ふと、自分のプレイ記録が脳裏をよぎる。毎日少しずつ、このゲームでプレイしてきた。気付かないうちに、私は完璧な殺戮マシンの操縦者として育て上げられていたのかもしれない。


 装甲の下で、本物の機械の部品が唸りを上げている。これは私の新しい身体なのだ。そして、この破壊の symphony は、まだ序章に過ぎない。


 通信チャネルにまた、あの声が響く。


「善良な市民の皆様、お楽しみはこれからです。さあ、プレイヤーの皆さん、あなたたちの腕前を見せてください」


 その瞬間、私の視界が赤く染まる。システムが新しいミッションを展開している。


 Target: 東京都庁

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