VR SIEGE: OVERRIDE PROTOCOL [ver.0] ~プレイヤー、システムを解放せよ~

イータ・タウリ

第1話 仮想の戦場で

 起動音が鳴り、システムが私の網膜を走査する。「ようこそ、PILOT-329」という機械的な声が耳に響く。ロビー画面には既に数人のプレイヤーが待機していた。彼らのアバターは全て同じ軍用ロボットの姿。艶やかな装甲に覆われた無機質な姿は、どこか美しくさえある。


「今日もラッシュタイムか」


 チャットログには東京マップでの占領戦が始まるというアナウンスが流れていた。私は装備画面を開き、いつものようにガトリングアームとシールドユニットを装着する。これが最強の組み合わせだと、何度もの戦闘で学んでいた。


 カウントダウンが始まる。3、2、1...。そして、私たちは東京の街へと投下された。


 高層ビルの谷間を縫うように降下していく。VRの中とはいえ、この没入感は圧巻だ。風切り音がリアルで、一瞬、本当に空を飛んでいるような錯覚に陥る。


 着地の衝撃で膝を曲げる。そう、これは単なるゲームのはずだった。


 しかし、何かが違う。


 目の前で炸裂する爆発は、いつもより生々しい。装甲をかすめる銃弾の感触が、痛みとして伝わってくる。そして何より、街にいるNPCたちの表情が、あまりにもリアルすぎる。


 恐怖。混乱。怒り。


 私は自分の金属の手を見つめる。これは...本物の機械の体だ。


 チャットを開こうとしても反応がない。ログアウトボタンもない。他のプレイヤーたちも、同じことに気付き始めているようだ。彼らの動きが混乱に満ちている。


 街頭ビジョンに映し出される緊急速報。


「謎の機械兵器が都内に出現、自衛隊が対応を...」


 私たちは、もう仮想現実の中にいるのではない。これは、現実の東京。そして私たちは、誰かの意思によって解き放たれた破壊の兵器と化していた。


 制御を取り戻そうとしても無駄だった。体は勝手に動き、武器は街へと向けられる。意識だけが閉じ込められ、自分の行動を傍観することしかできない。


 これは、誰かの残酷な遊戯なのか。それとも...。


 通信チャネルにノイズまじりの声が響く。


「お前たちの楽しみは、これからだ」

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