第10話「強欲の悪魔(2)」

前書き

どうもシロニです、よろしくお願いします。




「前回のあらすじ!」

大ピンチ!!

◇ ◇ ◇

これはリグルディアがポッカル部にてわちゃわちゃしているその裏、防衛魔術の授業にて別れた後のソル視点での話、窓から夕陽の光が差す黄昏色の廊下をソルと老婆の2人はコツコツと革靴の足音を響かせながら2人で歩いていた。


「ところで、私の名前はご存知のようですので自己紹介は省きますが、貴方様のお名前は?」

「そういえば名乗るのがまだだったね、あたしはフィオナ、賢者の里っていうとこから来たんだよ」


賢者の里...!たしかルゥ氏が住んでいたという辺境の村の名前ですね、え?じゃあこのババァはルゥ氏のご家族ということに?


「誰がババァだ、あんた目上の人に向かって失礼なやつだね!?」


は?なに勝手に読心魔術で私の心を読んできてるんですかこのババァは?やはりお嬢様の元に向かわれる前に排除しなくては。


「このクソガキ...!2回も言いやがったね!?それに少女に蹴られて悦ぶ変態に言われたくないよ!」


許可証も首から下げずに校内徘徊しているような認知症手前のババァに言われたくないですねぇ〜?


「テメェー!?警戒してるなら耐魔術式くらいやっときゃいいんだよ!棚上げしてんじゃねぇ!あと従者がなにやってんだい!この変態野郎!」


はぁ〜!?棚上げするなですって!?こちらのセリフでございますがぁ〜!?どの口が言ってるんですかこのデリカシー皆無ババァ!そもそも人のプライバシーを無断で暴ける読心魔術を私に無断で使ってる時点で論外なんですよババァ!!


「テメェ...!いいさね、その喧嘩買ってやろうじゃないのさ!」

この学園の建物は最先端の魔術耐性建築の施行が施されている、しかし、耐えられるように出来ているといっても2人が本気の魔術を使って戦いでもしたらろくでもないことになってしまうだろう、そんなことは言われなくても分かっていた2人が話し合うまでもなく行った戦いの方法とは。


「あふぁふぁふぁふぁ!?いわぁいですねこのははぁ!」

「い〜!?てめぇとしよりになにしやふぁんたこのろくでなしぃ!」


互いの頬を全力でつねり合うことだった、子供の喧嘩のように、思いっきり、つねり合っていた。

「ババァの貧弱な力程度でこの私が退くとでもぉぉぉ!?」

ソルの頬をつねるソフィアの力が急激に高まっていく、ソフィアは自身に肉体強化の魔術を施し火力を上げたのだ。


「ふぁ〜wwwどうだい!賢者様の全力は!?相当痛いだろうねぇー!!さっさと降参して頭を垂れぇぇぇ!?いたたたた!!あんふぁもつかってくるんじゃないよぉぉ!?」


傍から見たら成人男女が醜く争っているわけの分からない絵面、何故こんな醜い争いに発展してしまったのか?ソルはソフィアに心を勝手に覗かれたこと、名前を見破られていたことにより負けず嫌いな性格をいかんなく発揮。


さらにソフィアは勝手に人の心を覗くなど賢者らしいろくでなしっぷりをいかんなく発揮、追い打ちに2人は実は似た者同士で無意識に同族嫌悪をしていたが故にこれは起こってしまった、あとお互いに都合の悪い部分は棚上げし合ったりしたこと、大人って汚い。


そこに、三つ編みが可愛い長く青色の髪、黒縁の丸眼鏡の奥にまだ少し幼さを感じる顔立ち、そして白色を基調とした優しい魔女のような魔法使いの格好をした田舎出身の芋くささがまだ残る少女が声を聞きつけ、急いだ様子で廊下の突き当たりから姿を現す。

「こらぁー!君たち!喧嘩止めなさーい!ってあれ!?生徒じゃない!?」


アリス先生だ、その両手には学園の図書室から借りてきたのであろう魔術の本や童話の本などが数冊ほど抱えられている、今日も教師寮に行く前に図書室に行ってきたようだ。

「いや、とにかくソルさんたちを止めないと!あの!お2人とも喧嘩は止めて私の話を聞いてくださーい!」


「こんのババァ!!年寄りは年寄りらしく田舎でご隠居でもしてやがれってもんですよぉー!!それともここには墓石でも探しに来たんですかぁ〜!?」

「はぁぁぁ!?この野郎ぶち殺すぞ!?老人差別か!?マジで魔術で喧嘩してやってもいいんだぞこのマゾヒストがぁ!!」


熱中する2人にアリス先生のその声が届くことはなく、彼女はため息を零すと本を浮かせて、代わりに浮いていた杖をその手に取り呪文を唱える、それはたった一言。

「「封印解除(トリガー)」」


そして軽く息を吸い込む、彼女の発した呪文は「封印解除トリガー」これは大規模な魔術や扱いに注意が必要な魔術の暴発を起こさないように発動そのものを意図的に禁ずるための封印を解除する呪文、例えるなら核ミサイルのスイッチのカバーを外す...ということ。


そして魔術師たちにとって杖は特定の術式を刻み込むことで、スムーズに特定の魔術を発動させるショートカットのための道具、必要な魔力さえ込めれば発動してしまえるので大規模な魔術を使う時は一から術式を構築するより楽かつ早い、腕の立つ魔術師の多くは杖を常に持ち歩き、メンテナンスを怠らないのだ。


あとは杖に魔力を込め、その魔術の名を詠唱して起動するだけ。

「我が母なる海よ、全ての海の主たる大海の父よ、今ここに汝の許しを乞い願う、我が魔術にて愚者への裁きを、海への冒涜を、そして我が究極たる「固有魔術オリジン」を!」


「...えっ?(×2)」

ソルとフィオナの2人が気づいた時にはもう遅く。

呑み込むは大海タイラント 沈みゆくは愚者ウェーブ!」


アリスが唱えると彼女の前に青色の光の渦巻きのような大きな召喚ゲートが現れる、わざわざ「封印を施していた」程だ、そこから凄まじい音を立てながら大量の海水が凄まじい勢いで廊下を流れ、ソルとフィオナの2人を呑み込んだ。

「おぼぼぼぼっ...!?」

「おぼぼぼがっ!あたしは泳げ...!?ブクブク...」


海水は2人を廊下の突き当たりに、階段の下に、その階段を下った後の正面の壁にと運びながら最後に叩きつける、その勢いの凄まじさが2人の魔術の発動を許さなかった。

◇ ◇ ◇

アリスが階段を降りてゼーハーと息を吸う2人の前に立つ、そして左手を横腹に付け、杖を右腕に構え床に立てる、彼女は2人に向かって少し低めの威厳を出そうとした声で。


「まずは手荒な手段を使ってしまったことをお詫びします、ですが!この学園で魔法を使った私闘は校則違反ですよ!」

ソルはこれ以上リグルディアに知らないところで迷惑をかけまいと大人しくしている、しかしフィオナは納得がいかないと言った様子で。


「ゲホッゲホッ...!お嬢ちゃん!?いきなりなんて魔法使ってくるんだい!あたしたちを殺す気かよ!?」

「えっと...だってその、全然私の話を聞いてすらくれなかったから...」

「だからっていきなり魔法ぶっぱなすとかありえんじゃろが!?」


いきなり読心魔術使ってくるようなあなたが言います?とんでもなさではどちらも五十歩百歩なのですが...

「しかもあの魔術!封印解除トリガー級だろ!?そんなもんを人に向けて撃ってくるとかあたしたちに殺されても文句言えないぞ!?お嬢ちゃん!!」


封印を施す必要がある程に扱いに注意が必要な魔術のことを発動に封印解除トリガーを行うことにちなみ、魔術師たちはそのまま封印解除トリガー級と読んでいる。

アリスはさらっと行使していたが、本来ならば暴走必至レベルの魔術、それを容易くコントロールして2人の無力化までに力を抑えるのはさすが今賢者に1番近い魔術師といったところであるのだ。


「だって...魔術使うとか言ってたし...知らない人がそんなこと言って暴れてるから...」

「それは...!その...ヤバいね、言い訳できんさね」

ざまぁですよババァァァァァ〜!!

「はぁ...参ったね、さすがにこれは言うこと聞くしかないねぇ」

「あ、それはありがたいです!おばあさんのこと色々と教えてください、ソルさんは既に自己紹介していただいてるので結構ですよ」

「...お嬢ちゃん、あたしが言うのもなんだけど半分不法侵入のあたしにそんな態度はちょっとどうかと思うさね、もう少し怒るとかさ」


ほんとにどの口が言ってるんでしょうね、本来ならば許可証もなしに部外者がこの学園内をうろつくとか半殺しにされてもおかしくないですよ。

「あたしはフィオナ、マーリン...学園長に用があって賢者の里から来たんだ」

「賢者の里...ということはおばあさんは賢者さんなんですか!?」

「あぁそうさ、あたしは賢者様だよ、まぁ気の向くままに魔術を極めてたら周りが勝手にそう言い始めたんだけどね、今はそう名乗ることにしとるよ」


賢者を名乗るならせめて最低限のマナーを身につけて欲しいものですが...

「あんたさっきからうるさいんだよ!黙りやがれ!」

「なにまた勝手に読心魔術使ってきやがってるんですかこんの非常識ババァ!?あなたの頭にほんとに知恵が詰まってんですかぁぁぁ!?それとも知識ばっかり詰めすぎて常識を入れ込めなくなった駄賢者なんですかぁぁぁ!?」

ほんとにこのクソババァは...!!対策に魔力バリア張っても貫通してくるのが腹が立ちますよ!

「んだとテメェー!?」


また2人は取っ組みあって睨み合う、この2人の相性は見ての通り最悪だ。

そこにアリスが杖を軽く地面に一突き、すると2人の頭上にまた渦巻き状のゲートが現れ今度は大量の水が2人に降りかかる。

「おv2m5kgnglgoぅっ!?」

「ぼぼjkgbgねしてぬっ!?」


ゴボゴボ言いながら2人は急いで滝のように出てくる水から逃げ出す、水は先程の海水と共に廊下を広がっていき2人の全身やアリスの靴を濡らしていく。

しかしアリスは自身や廊下が濡れていくのを気にもとめない、それは「魔術で発生した水や土等は時間経過や使用者の意思で魔力の光の粒子となって消えてしまう」のを知っているからであった、つまりいくら水をぶっぱなそうとも簡単に乾いてしまうのだ。


「またやってもいいんですよ?」

「ゲホッゲホッ...さっそく実行してきたよ...いいじゃないか」

あぁ...ほんとに溺れるかと思いました...水属性魔術の使い手はこうだから怖いんですよ、アリスさんは今後絶対に怒らせないようにしませんと...死んでしまってはリグルディアお嬢様を守れなくなってしまう。

「とりあえず...お話は職員室でお聞きします、もう喧嘩しないでくださいね?」

「はい...(×2)」

◇ ◇ ◇

そしてアリスによってパッと乾いた3人は職員室へと歩いていく。

「ところで、さっきの魔術...見たことがないねぇ、あたしは長年生きてきて色んな魔術を見たり、使ってきたけど、あれはお嬢ちゃんの「固有魔術オリジン」かい?」

「あ、はいそうです!私の固有魔術オリジンです!」


固有魔術オリジン、簡単に説明するとそれは使用者の覚悟や決意の形が魔法として現れたもの、術式だけの魔術の使用は通常困難を極めるが、固有魔術オリジンは息をするように扱うことが出来る、さらに人によって効果も見た目も様々で本人にしか使用出来ないという特徴がある。


「だろうね、なかなかいい魔術じゃないか、まぁ大量の水を召喚してゴリ押しするってのはどうかとも思うが、水属性の使い手ってのはどうしてこうも力押しばっかりの脳筋が多いんだい?凍らせたりとかすればいいのに」

「...っ!?脳筋!?言っておきむすけど!私いつもはテクニカルな方法で闘ってますから!水属性の使い手を脳筋呼ばわりは止めてください!へ...偏見ですよ!」


噛んでますねぇ〜アリスさん、慌てて否定していますが実際水属性の使い手の方はパワータイプの方が多いのは事実です、何故ならば大波が時に凄まじい脅威になるように水属性の魔術は物量で圧倒するのが強いんですよ。

「事実だ、諦めな、しかしなんでお嬢ちゃんみたいな見るからに芋くさい読書っ子があんな固有魔術オリジンに目覚めてるんだい?」

「それは...!それは...ちょっと言いたくないです」

「なんだよケチくさい」


心読むなよババァ、百歩譲って私のプライバシーを侵害するのは見過ごすとしても、リグルディアお嬢様や青春真っ只中の少女なアリスさんの心を暴くなど絶対に許しませんからね?どうせまた覗いてきてるんでしょう?

「...ッチ、さすがにあたしもこれは覗かないよ、あたしが覗くのは覗いても問題ないやつだけさね」

マジでぶち殺すぞクソババァ、私にだってプライバシーを守られる権利はあるんですからね???

◇ ◇ ◇

「...ん?はーい!何の用〜?あら、アリスちゃん!今日は何の本を借りてきたの?」

「あ、どうもヴィオラ先生、今日は薬学と薬草の図鑑の本を借りてきました」


アリス一行を職員室で出迎えたのはヴィオラ先生、紫色の長いサラサラヘアー、青色の綺麗な瞳、柔らかい雰囲気の顔立ちの魔道歴史学専門の女教師、リグルディアの二へへ顔を目撃していたあの女教師だ。

「回復魔術を使うのも良いですがやはり緊急時に使える知識などは貯えて損は無いので」

「あら、いい心がけね!ん...?アリスちゃん、そちらの方は...?」


ヴィオラ先生はアリスの後ろに見知らぬ老婆が立っていることに気づく、ソルのことはリグルディアの従者であることも、前に丁寧な自己紹介を受けているので知っていた、しかしこの老婆は見覚えがない。

「あたしはフィオナ、賢者の里っちゅうド田舎から来た賢者様さね、お茶出しな」

「えぇ!?賢者様なの!?アリスちゃんが連れてきたから信用はするけど...今日は賢者様が学園に来るなんて連絡あったかしら...」


は?連絡がない?どういうことです?

「マーリンのやつ、あたしからの手紙読んでなかったのかい、さてはまたあたしからの面倒事だと思って捨てやがったな?」

「えぇ...?あの...フィオナ様、その手紙の話を詳しく聞かせてもらえませんか...?マーリン学園長が私たち教師に賢者様が来るなど大事な連絡を忘れるとも思えないのですが...」

「あぁ、昨日の晩にあいつの学園長室に座標を設定して転送魔術で手紙を送ったんだよ「明日そっち行くからよろしく」って、」


アポイントメントがクソ雑過ぎるんですよババァ!!そりゃあマーリン様も各先生方も知るわけないでしょうが!それにそういうのは然るべき手順で行うものなんですよ!

「あ、もしかしたら座標を少し間違えてたかも知れないね、あたしこの国に来るのは数十年ぶりだしねぇ」

「なんか...私の中の賢者のイメージが崩れていく...」

アリスさん、貴方はこんな駄賢者のようにならないでくださいね...

◇ ◇ ◇

そして...職員室の扉を開けて、白髪に長く白い顎髭、いかにも魔術師といった緑色のローブ姿にとても優しそうな目つきをしたお爺さんが、少しそわそわした様子で入室し部屋を見渡す。

「...っあ、はぁ...フィオナ...」

「遅いじゃないかマーリン、先輩を待たせるんじゃないよ」


はぁ...?このババァ..この学園の学園長であり、偉大な魔術師マーリンの名を代々継ぐ「マーリン家」の賢者マーリン様を後輩扱いですって...?

「なんだいあんたらその顔は、あたしとマーリンは昔この学園に通ってたんだよ、そんでこいつは後輩、ちなみにあたしは108歳」

なっ...!?108歳...!?トールマンの世界最高年齢10歳も超えてんじゃないですか!?


「ていうか、様を付けな様を、いつも1人だったあんたの面倒を毎日見てやった恩を忘れたのかい、坊や?」

「あれほぼ君の起こした騒動に僕を巻き込んだだけじゃないか...たしかに修行に付き合ってもらってはいたけども...」

えぇ...どんな関係なんですかこの2人...マーリン様がすごく困っている...


「あれはあの分からず屋どもが悪い、世間体だとか、配慮だとか煩いんだよ、ここはそういう場所だろう?」

「まったく...君は歳をとっても全然変わらないね...」

「そういうあんたはすっかり老けたね、髭とか伸ばすタイプだったか?」


そういうとフィオナはお茶の入ったグラスを手に取って立ち上がり、マーリンを連れて2人で学園長室へと向かっていってしまう。

「あぁそうだ、ソル、あんたに1つ言うことがあってね」

は?なんですかババァ、私は謝ったりなんかしませんからね。

「あんた、リグルディアのお嬢ちゃんから目を離すんじゃないよ?あの子になにか良くないものが近いうちに迫って来る」


は...?

「あたしは色んな魔術を使えるけどね、1番得意なのは占いなんだよ、だから未来が分かるんだ、あのお嬢ちゃんに悪意のあるものが手を伸ばしてる」

ちょっと、なんですかそれは!?お嬢様の身に危険ですって!?


「昨日ね、珍しくルゥちゃんがやけに嬉しそうに里に電話をしてくれたんだよ、とても楽しそうにお嬢ちゃんとのことをあたしたちに話してくれたんだ、「僕は嫌われてなかった」「またディアちゃんに会えて嬉しい」って何度も何度もね...だから、あんたが1番あの子の近くに居るんだ、しくじったら許さないよ」


...急になんなんですかこのババァは...言われなくとも私はこの命にかえても護る覚悟でございます、私の忠誠心をナメるな。

「礼の一言ぐらい言えねぇのかテメェは、まぁ...あたしは忠告したからね、あの子はルゥちゃんにとってかけがえのない存在だ、それを忘れるんじゃないよ」


そしてガラガラと音を立てながら扉が閉ま...

「待てぃ!ババァ!なんでここで話さない!?」

「なんだい、あたしはマーリンと2人で話すことがあるんだよ、雑魚はマーリンからの話を待ってな」

しれっと雑魚呼ばわりしてくるなババァ!


「憶測ですがその話って絶対先程のことですよねぇ!?それなら先生方にとっても他人事ではありませんよ!何故マーリン様と2人で話す必要が!?」

「煩いねぇテメェは、信用出来る賢者同士で話したいんだよあたしは、どこに敵がいるか分からないからね」

っ...一理ある...ここは納得するしかありませんか...

「分かったら黙ってな」

そして今度こそ2人は学園長室に行ってしまった。

◇ ◇ ◇

職員室には他の先生は用を済ませているのか、それとそれぞれの顧問をしている部活動へ行ったのか、フィオナさんたちが去った後は、私と、ヴィオラ先生と、ソルさんの3人が残っていた。


「あぁ〜!!あのババァも!脅威の話も!なんなんですか!」

ソルさんがもの凄く荒ぶってる...!私も色々あって少し混乱してますけど落ち着いてくださいっ...!

「ソルさん...!気持ちは分かるけど落ち着きましょ?ね?」

「っ...分かりました、少々取り乱してしまったことを謝罪いたします」


ホッ...ソルさんが臨機応変に動ける人でよかった...それにしても、この学園に何か良くないものが迫ってるなんて、少し怖いなぁ...

「アリスちゃん、貴方の不安な気持ち分かるわ...子供たちに悪意が迫ってきてるなんて、大人としても、先生としても、見過ごすわけにはいけない」

ヴィオラ先生...先生も不安なんだ...


「でもこの学園にはマーリン様以外にも賢者様が居るし、もちろんあたしたちも居る、だからそんなに不安がらないで?怖い時は遠慮なく大人を頼ってちょうだい!」

ヴィオラ先生は私の不安を振り払うためにニコッと笑って胸を張る、私がこの学園に先生として入ってきた時も先輩かつ大人として私のことを支えてくれた...やっぱりヴィオラ先生は私にとって尊敬すべき大人の1人だ。

すると扉が開き誰かが入ってくる、フィオナでもマーリンでもないその人物は...


「おっ?ソル君居るー!珍しー!あ、ヴィオラくんにアリスくんも!やぁーやぁー!」

その人物はグレー色のパーカーを着たとてもカジュアルな格好をしていたが、頭以外の露出が極端に少ない男...しかし3人とは明確に違うものが1つ。


「俺ちゃんさっきアクアゲート部行ってきたんだ〜!いやぁ〜!青春真っ盛りの若者たちの引き締まった肉体は良いね!食べちゃいたくなっちゃう!」

その人物の頭は竜人族のもので、かつ肉や脂肪のない骨頭...つまりは彼は「アンデッド」だった、かつて眼球があったその空洞の奥には青い光がまるで瞳のように存在している、口を開けるとどうなっているのか分からないが青白く光る長く太い舌が存在感を放っている。


「貴方が言うとマジで反応に困るのでそういう冗談止めてくれません?レクウェルさん」

「レクウェル」多くの謎をその骸の中に抱える、肉体が朽ちて骨だけになったとしても、その闇の中にある魂でこの世界を見続けている竜人族のアンデッド、スケルトンだが一応男らしく。

「夢見る骸」の2つ名を持つ賢者の1人。


「えぇ〜?ただの冗談なのにぃ〜!俺ちゃんも一応先生だよ?そこんところは守ります〜」

「分かってても反応に困るんですよ」

レクウェルさん今日もマイペースだなぁ〜

「あ、ヴィオラくんそれお茶?俺ちゃんも飲む〜」

するとレクウェル先生は新しいグラスにティーパックを沈めてお茶をゴクゴクと飲んでいく、いったい飲んだお茶はどこに行ったんだろう...胃袋ってあるのかな...レクウェルさんは頑なに人目のあるところでは服の中を見せないから分かんないや。


「あ、そういえばソル君〜君が連れてきたエロガキ君たちがやらかしたみたいでクラ先がブチ切れてたよ〜」

「え、どういうことですかそれ」

「なんかクラ先の説教の途中で片方がクラ先の目を欺いて脱出したんだって〜廊下をブチ切れながら早歩きして探しててさー!それにまた眉間にシワ増えてて俺ちゃん笑っちゃった」


あぁ...そうだった、たしかエドワード君とギルギ君が私の授業中にエリーデちゃんに...しかもどっちか分かんないけど抜け出すなんてなにをやってるんだ、クラーベス先生怒ると怖いのに。

「俺ちゃんは多少のやんちゃとか、ちょっとしたいたずらは許容するタイプだけどねぇ〜?死んだらそこで終わりなんだから生きてるうちにやりたいことやっとくべきじゃん?やらせてあげたいじゃん?3人は?どう?」

「えぇ...?なんかレクウェル先生が言うと妙に説得力あるように感じちゃうわぁ...」

「あ、ヴィオラくん分かってくれる〜?嬉しいなぁ〜」

「ちなみにその子たち何したんですか?」

「ん〜?光の巫女君のパンチラ」

「断罪」

うわっ、同情の欠片もない心の底からの真顔。


「ヴィオラくんのその顔ウケる〜wところでさっき何の話してたの?学園長と読心術使ってくるババァが学園長室に歩いていくのが見えたけど」

レクウェルさん!?

「あぁ...それはですねぇ」

◇ ◇ ◇

「え、なにそれ怖っわ!?ヤダヤダ!俺ちゃんホラーとか苦手なんだけど!」


1番ホラー映画とかに出てきそうな姿してるのに...

「怖いですよねぇ...とりあえず後日マーリン様からの詳しいお話を待ちましょう?みんな」

「えぇ、私もこの学園の結界が突破されるなどあまり考えられませんが、私も警戒を強めます」

「やだなぁ...また戦争とか嫌なんだけど...みんなのこと頼りにさせてよ〜」


私も、役に立てるように頑張ろう...!

そして4人は出来る対策などをもう少し4人で話し合った後、解散してそれぞれ別行動を取り始めた、もちろんソルはリグルディアの居るポッカル部に真っ直ぐ向かう...のではなく、リグルディアのマジフォの見守りGPSアプリ(本人、父親公認)にアクセスしてリグルディアの位置を確認する。

「おやぁ...?」

そしてあの奇行に繋がったのだった...

◇ ◇ ◇

そして場面は現在へと。

「ソル!あんなんだけど相手は生徒たちよ!殺すのはもちろん論外!分かってるわね!?」

「えぇお嬢様!この私、心得ておりますとも!」


生徒たちは今にも襲い掛かりそうな様子だ、でもゆらゆらしてたり、虚ろな目でこっちを見るだけだったりで、魂でも抜かれてアンデッドになったみたいで気味が悪い...!


「ソル!相手の魔術はあたしがなんとかする、だからあんたは生徒たちの無力化をお願い!今キッついだろうけど踏ん張りなさい!」

すると生徒たちが一斉にこっちを向いて、全員で「ニチャア...」といったニヤケ顔を見せてきてゾッとしてしまった。


「ヒッ...!?」

「貴方たちに何があったのかは分かりませんが...お嬢様に牙を剥くというのならば、へし折ります」

ソルは目つきを鋭くして相手を睨む、後ろに居るあたしには見えなかったけど、相手が少し怯んだ様子を見せていたからきっと凄く威圧感のある顔だったんだろう。


「お嬢様...合図で私に合わせて...!」

「...えぇ、分かった!」

あたしはいつでも帳をソルの周りに張れるように構える。

「3...2...1...いきますよ!」

ソルは前方に強く踏み込むと一瞬で相手との距離を詰め、拳を床に叩きつけて小さな爆発を起こしてその爆風で生徒たちを吹き飛ばす、その魔力はまるで炎のように力強く、爆発力に優れていて誰かを護る優しさに溢れていた。

「っ...!?ソル!あんたそれ...!」

「えぇ!はい!私は炎属性でございます!」


ソルはパワフルかつスマートな立ち回りで生徒たちの武装を解除していき、多くの生徒たちを丸腰の状態にしていく、しかしそれでもダウンしていない生徒以外は襲い来るその手を止めることなく無感情に迫り来る。

それと同時に後ろの方に居た女子生徒たちが一斉に構え魔法を放ってくる。

「っ!お嬢様!」

「えぇ!分かってるわ!」


ソルが後ろに飛び退きあたしの後ろへと下がってくる、それと同時にあたしは魔力で作られた薄いカーテンのようなヴェールを前方に展開、すると放たれた魔法は全てルゥの時のように吸収され、魔力が流れ星のようにヴェールを流れ続けその絵面はまるで流星群の見える冬の夜空のようだった。


「っ!ちょっと!あいつらまだ撃ってくる気!?」

あたしは相手が攻撃の手を止めないことに焦りを覚えた、何故ならばあたしのこの帳はあくまでも魔力防壁、いくら攻撃をたくさん吸えても限度があり、技もまだまだ未熟、このまま攻撃を受け続ければやがてこの星空はバラバラに破れてしまう...!


「ソル!」

あたしはソルに期待を込めて呼びかける。

「お任せを!」

ソルは横に飛び出すと、相手の足元に魔力弾を放つ、すると床に着弾した魔力弾は小爆発を起こし生徒たちを吹き飛ばしてダウンさせていく。


「ソル!あんたそれ殺してないわよね!?」

「えぇ!殺してなどいませんとも!あくまでも無力化ですのでね!」

その時、相手の何人かがあたしの元に吹き飛んできた。

「キャッ!?ちょっとヤダ!こっちに吹き飛んで来たわよ!」

「すみませんお嬢様!やられる前にやれなため微調整が難しく...!あ、なに逃げようとしてるんですか、逃がすかぁぁ!!」


あとはソルがバンバン1人で無力化していってる...寝不足で弱体化してるはずなのに相変わらず強いわね...あと相手が手馴れじゃなくて生徒だったってところも幸運かしら...

「あら...?」

よく見たら...生徒たち全員が「マジカル社」の製品を身につけてる?これはルゥも持ってたワイヤレスヘッドホン、これもマジカル社のマジフォ...これもマジカル社のコンパクト魔道杖...これはマジカル社のTシャツ...あの会社Tシャツも作ってたの?IT会社なのに?

「何この変な共通点...」


「二へへ...♡」

ん...?なに?なによ!?

「パンツが...見え...」

足元を見ると、爆発で吹き飛んできたのであろう1人の男子生徒があたしのスカートの中を覗こうとしている、彼は横たわりジリジリと身体を動かしてあたしの下へと迫っていた。

「はっ!?な!?ちょっと!?」

「はっ...!!見えた!!」

はぁォォォォぁぁぁー!?何してくれてんのこいつ!?こんな時に何やってくれてんの!?ていうか喋れたの!?ちょっとヤダ!や、止め...!!


「...履いてる、なんで履いてるんだよ、はぁ...」

とある男子生徒はリグルディアのスカートの中を覗いて、ショートスパッツを履いていることを確認すると心底ガッカリした表情で、リグルディアのことを心底見下していた、下から。

「そこはパンツだけにしとけよ...女ならさぁ...」

...


「ヒャッハァァァァァ!!逃げろ逃げろぉぉ〜!私の爆発から逃げられるものならなぁぁぁ〜!?」

ソルが私の後ろでやけにハイテンションで一方的に生徒たちを蹂躙している、あたしの下にいるこいつはスカートの中を覗いてきた挙句、クソみたいなことをほざきながら心底つまらなそうに横たわっている。


スカートを覗く前はあんなにワクワクしていた表情だったのに、こいつは、私のことを散々侮辱してきやがった挙句の果てに。


「あと脚太すぎw運動すれば?」


その瞬間、彼女の脳裏を凄まじい怒りの感情が支配した、この男の尊厳と心を蹂躙せよと、情緒をありったけの力で破壊し尽くしてやれと、彼女の中の武神がそう告げていた。

「...スゥー」

「ん?なにして...」


あたしは深く息を吸って、足を大きく上げる。

「え...ちょ...」


そして...相棒をこいつの顔面に向かって大きく振り下ろした。

「ルオラァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

「グヴェラァァァァァ!?」

男子生徒の顔面に振り下ろされるかかと、廊下中に響き渡るほどに大きい腹の底から出される怒りの叫び、そして廊下中に響いたとても鈍い音、この作品は一応ラブコメなので男子生徒がグロテスクなことにはならなかったが、少年は大ダメージを負って再起不能となった。


「っ!?お嬢様!?」

驚いたソルが攻撃の手を止める、まだ生徒たちは立ち上がり、押し寄せてきてはいるが爆発を恐れたのか最低限の距離は保っている様子。


「...っらぁ!!」

するとリグルディアは男子生徒の顔面に左手を押し当て自身の魔力を流し込み硬直魔術を仕込む、すると男子生徒の身体は縦に硬直しリグルディアは追加で強化魔術、魔力バリアなどを施す、。

そして彼女はその脚を両手で掴みあげると。


「散りやがれぇぇぇー!!」

「いやぁぁぁぁぁ!!ごめんなさいー!!助けてぇぇー!!」

リグルディアは男子生徒の身体ををまるで大剣のように持ち上げ、肉体強化の魔術で自身を強化して男子生徒を振り回し縦横無尽に敵をなぎ倒していく。


「お嬢様ぁぁぁぁぁ!?」

◇ ◇ ◇

そして、ブチ切れたリグルディアによって様子のおかしい生徒たちは一掃され、地に倒れ尽くしていた。

「...ふぅ」

「わ、わぁ...」

リグルディアは敵をボコボコにしたこと、ムカつく男を武器代わりにしてやったことでストレスを発散し、先程までの怒りはどこへやら、すっかり落ち着いていた。


今もリグルディアに装備されている男子生徒は様々な守りが施されているので傷つくことはなかったが、その表情はまるで絶叫、トラウマ必死の極悪ジェットコースターに乗ってきたかのように恐怖と後悔の感情に染まっていた。


「ソル、ルゥたちのところに行くわよ」

「え?」

「だってルゥたちも同じような目に合ってるかもしれないじゃない!助けに行かないと!」

「あ...たしかにそうですね!行きましょう!」

「あとお父様にも連絡しといて!」

「あ!?お嬢様!何故か分かりませんが圏外になってますぅ!」

「はぁ!?ったくもー!仕方ないわね!こうなったらやれるだけやりまくるわよ!」

「ヒュ〜!お嬢様かっこいいです〜♡」


するとソルは足元にとある男子生徒が横たわっているのに気づく、そしてリグルディアも同じく気づき、2人は目が合うと。

リグルディアは最初と同じように男子生徒を武器化させる、リグルディアの装備のトールマンの彼とは違い彼は魚人族だったのでソルは彼の太く長い尾ビレを掴み、まるで大槌おおづちを持つかのように持ち上げる。

そしてなんだか様子のおかしい2人は横に並んで勇ましくポーズを取る。


「いくわよソル!黒幕をぶっ飛ばしてやるのよ!」

「えぇ!!ぶっ殺してやりますよぉぉぉ!!」

「えぇ!黒幕絶対ぶっ殺す!!」


そして2本の男子生徒を装備したデコボココンビは男子生徒たちの大絶叫とともに廊下を軽やかに疾走して行く。

...そして運が良いのか悪いのか、2人に装備されている2人の男子生徒は、今日の授業でエリーデのパンチラを狙ったあのエロガキ2人なのだった...


to be continued




後書き

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