第8話「狐と○○」

前書き

どうもシロニです、よろしくお願いします。




「前回のあらすじ!」

ニッポン国出身のトールマンのトウコ、彼女はなんやかんやの末リグルディアとポッカル部の4人に自分の正体の妖狐であることが発覚!

しかしポッカル部のメンバーたちの関係が変わることは全くなく、むしろ秘密を打ち明けたことにより絆はもっと固く結ばれ、なんだかんだ5人は友達になったのだ!

そしてトウコは自身の過去を4人に打ち明けることになり...

◇ ◇ ◇

7月11日、夏の日差しがクソ暑い真夏、実家のクソ親父に嫌気がさして屋敷を飛び出した日のこと。


「灯子(トウコ)!何度言ったらお前は理解出来るんだ!他の同族たちは皆「化け術」を難なく身につけているというのに!何故お前は!いつまで経っても変化を身につけない!?」


化け術、文字通り他のものに化ける術のこと、生き物はもちろん、物体にも化けられて、上手いやつは個人によって微妙に気質が違う妖力さえも真似ることが出来る。

化け術は妖狐にとって人間が足を動かして歩くのと同じで「出来て当然」そして「自然と身につくもの」だ、でもあたしはそれがどうしても上手く出来なくていつもクソ親父や神に媚びへつらう人間のクソ老害のどもに怒られて、見下されてた。


「何故なんだ!わざとなのか!?そんなに私のことが嫌いか!?」


嫌いだよ、自分の子供が思い通りにならないから怒鳴って罵倒する父親なんて尊敬出来るわけないだろ。

「護人(もりと)!もういい加減にして!灯子に対する日頃の罵倒の数々!私は堪忍袋の緒が切れました!」


クソ親父のあたしへの当たりが日々強くなっていたことであたしを心配した母さんは、クソ親父があたしを化け術訓練のために道場に連れていく度にどんなに忙しくても必ず駆けつけて親父からあたしを守ろうとしてくれていた。

そしてついに自分より何倍も体格の大きいクソ親父の間に立って泣きながらクソ親父を怒鳴りつける、クソ親父は目に大きな隈が出来ているがその表情はとても威圧的で、限界といった様子だ。


「もう愛想も尽きたわ!こいつのせいで私は同族にも!人間たちにも!影で好き放題言われる始末だ!私が一体何をしたというんだ!何故灯子は私を追い詰める!?私の何が悪かったんだ!?」

「それを灯子のせいにするのはお門違いでしょう!?この子が化け術を上手く扱えなくとも!それでも受け入れ!向き合い!愛するのが私たち親の役目でしょう!?大切なことを思い出して!!」

「煩い!!こいつのせいだ!!全部この約立たずのせいだ!!私が鼻つまみものにされるのも!陰口を叩かれるのも!出来損ないと言われ続けるのも!全部!!こいつの!せいなんだ!!」


親父は頭を掻きながら発狂しだす、その姿はかつての博識で優しい父の姿ではなく、周囲からの理不尽な心無い言葉と見下しの感情で狂った1人の男の姿。

...今思えば、親父もあたしの見えないで酷いことをされたり、苦悩してたのかもしれない、昔は親父もあたしに優しかったし上手く化けられなくても怒鳴ったりせず優しかったし。


「だから...そこを、退いてくれ...!雪...」

「絶対に...嫌です...!!」


それから親父と母さんは初めて手が出るほどの大喧嘩をした、互いにブチ切れて理性のリミッターが外れた2人は変化を解いて5本の尻尾を持つ巨大な妖狐の姿を現す、それは自然災害に見舞われてもビクともしない八百万の神の知恵と恩恵が詰まった道場を半壊させた最初で最後の夫婦の大喧嘩だった。


「...っ!?何が起こっているのですか!?皆の者!直ちにあの爆発の元に向かい確認なさい!私は封印の準備を整え次第すぐに向かいます!」


屋敷のすぐそばにある山にある社、あたしの一族はそこに住む神の元に仕えていて、当然騒動はすぐに神や老害どもに認識される、何故なら隣町にまで聞こえるほどの爆発が何度も起こっていたからだ、被害が屋敷の外にまで及んでいないのは神の恩恵の故だった。

そしてあたしはこの喧騒に乗じて慌てふためく屋敷の人間どもを押し退けながら一心不乱に屋敷から逃げ出して、戻らなかった。


「なっ...!?父様!?か、母様...!?はっ!?灯子姉さん!どこに行ってしまったんだ!?そこのお主!姉さんを見なかったか!?」

あたしの弟の光(みつる)だ、あたしより妖術は下手だが要領がよく化け術も上手いからあたしより周りからよく持て囃されていた、本人はゴマすりが多いからって邪魔そうにしていたけども。


「申し訳ございませぬ光様!灯子様の行方は分からず...さらに屋敷の者は全て騒動の鎮火にあたり、捜索にまでに手が回すことが叶いませぬ!」

「なっ...!?姉さん!」

光はあたしを探しに行こうと駆け出そうとするがすぐに手を掴まれてしまい。

「いけませぬ光様!灯子様などより御二方の争いを止めるのが先にござります!森神様のご到着には時間を要するとの知らせがあり、屋敷の者たちだけでは被害を抑え切るのが苦しゅうございます!」

「はぁ...?それ、は...くっ...あぁ...もう!!最悪だ!何もかも!!」


そしてこれはあたしの家出から10数年後、この学校に入学したことをどこからか情報を仕入れやがった光から送られてきた手紙で知った話。


あの後親父は森神と母さんたちでタコ殴りにしてなんとか弱らせた後に近くの山の中に封印されたらしい、2人の戦いで散々なことになっていた屋敷も新しく建てられて、親父の封印も一族や森神が常に異変がないか監視しているとのこと。


親父の封印は常に安定しているらしく、理由は中の親父が暴れたりせず大人しく過ごしているかららしい、封印の中には森神以外入れない作りらしく、森神から聞いた話によると精神的に落ち着いてはいるらしい、でもその様子はおかしくなる前のようではなくまるで魂が無くなってしまったかのような、別人になってしまったかのようで、常に憂鬱げであたしに対しての行いの後悔と謝罪の言葉を吐いている。


あと親父を精神的に追い詰めた奴らは上の座を狙っていて親父が気に入らない奴らや、山で悪さしていたところを親父にシバかれて逆恨みした奴らでそいつらが結託して、あたしをネタに毎日ジワジワと親父を追い詰めていた事が分かったと書いてあった。


屋敷の中や外で陰口をたたいたり、町の住民たちに根も葉もない噂をまいたりでバレてないことをいいことにやりたい放題で、責任感が強く一人で抱え込む性格の親父の様子に母さんたちが気づいて支えようとした時には既に手遅れだったみたいだ。


「...灯子姉さん、お返事、待っています」

◇ ◇ ◇

それからあたしは一度も実家に帰ることなくフラフラと色んな場所を渡り歩いていた、金もないし、知り合いもいなかったからほぼ野生の獣や自然の中で暮らしている妖怪たちとなんら変わらない生活を送って、あたしは妖怪たちから神に仕える従者としての意味合いが強い妖狐ではなく獣のように自由に生きる狐族である野干と呼ばれるようになった。


「へへっ姐御っ!今日も一段とお美し...っぎゃ!?」

「あぁ!?誰だお前ら!邪魔だ!付いてくんじゃねぇ!」


そんな暮らしを3年もしていると、あたしが2尾だったからか媚びへつらって取り入ろうとする輩も現れ始めた、でもあたしはそんな奴らとつるむこともなく邪魔な奴らを蹴散らしながら毎日を1人で過ごしていた、でもある日そんな毎日が少しずつ変わり始めて...


「なぁなぁ、知ってるか?この近くの崖で毎日一人で何か変なことしてる人間がいるらしいぞ」

「こんな山の中に人間が?」


人間たちは近寄らない妖怪たちの領域、その山の名を「夜なき山」色々と物騒で変な噂が絶えない場所だから人間嫌いだったその時のあたしには居座る場所としてはちょうど良かった、そんな山に人間が毎日来ているなんて噂を聞いて、どんな変な奴なんだろうと少し興味が湧いてあたしはそいつがどんな奴なのか見てやることにした。


そしてあたしは噂で聞いたあたりの場所を探していると、そいつ...いや、○○は山の隠れ絶景スポットに居た、○○は崖から見える町の景色をスケッチブックに描いていた。


「ひそひそ...お前ちょっとあいつの鞄盗んでこいよ」

「ひそひそ...えぇ...嫌だよ俺は、人間の臭いが臭くてたまらん...」


子供の膝下くらいの大きさの小さな妖怪が2人草むらの中に隠れていた、夜なき山の妖怪の多くは人間を恐れていたり、嫌っていたりするから、こいつらも自分たちの山に張り込んだ人間の○○を嫌って、○○に嫌がらせをしたいんだろう。


「ひそひそ...俺も嫌だよ、人間の臭いなんて一瞬でも鼻に入れたくねぇ!」

「ひそひそ...じゃあどうすんだよぉ...どうやってあいつ追い出すんだ」


...雑魚どもが。


「っ!?ぎゃっ!?よ、妖狐!?なんで妖狐がこんな所に!?」

「いやよく見てみろ妖狐にしては尻尾が2尾だし薄汚ぇぞ!こいつ野干だぜ!」

よし、こいつらは今ここで殺す。


「ぎぃやあぁぁぁぁ〜!?」

「あっ!?おい!俺を置いてくなよぉぉー!!」


草むらに隠れていた2人の妖怪はあたしの圧に慄いてみっともなく逃げていった、追いかけてやろうかとも考えたが目的があったからそん時は止めた、当然許してはいない。

あの二人が大声を上げながら大きな音を立てたもんだから、描くのに集中していた○○もさすがに驚いてこっちの方を向いた、あたしは人間に気安く姿を現すのも気に食わなかったから木の上に姿を隠していた。


「...誰だい?そこに誰かいるのかい?」

○○がキョロキョロと辺りを見渡して声の主を探す、あたしはそんな○○の不意をつきながら木から降りて、かけている黒縁メガネを奪ってやった、理由は単純で人間は大嫌いだったから。


「わぁ!?誰だ!?俺の眼鏡を返してくれ!」

へへっ、眼鏡を盗られて慌ててやがる、あたしはニヤニヤ顔でそう思いながら○○がこの後どうするかを観察していた、でもあいつは予想外の行動に出やがった。

「あっ!そこに居た!狐さん!俺の眼鏡を返してはくれないかな?」

「...は?なんでお前あたしが見えてんだよ!?お前目が悪いから眼鏡かけてんじゃねぇのか!」


あたしがそう言ったらあいつは眼鏡を盗られてるっていうのにヘラヘラした態度であたしに返事をしてきやがった。

「えっと、それ伊達メガネなんだ」

「伊達メガネかよテメェ!!」

そん時はムカついたからあいつの顔に向かって投げ返してやった。

◇ ◇ ◇

それからあいつはあたしに嫌がらせされたり、他の妖怪たちに酷い目に合わされたとしても毎日そこに来続けてはスケッチブックに毎日絵を描いていた、そんな○○にあたしは段々ともっと興味が湧いてきた、こんな変な奴は今まで見てきたことがなかったからだ。


その時のあたしの人間という種族に対してのイメージはとにかく最悪で心の底から見下していた、でも○○だけは見てて飽きないし出会ったことのないタイプだったから、あたしはある日から影から妖怪どもの○○に対する嫌がらせから○○を守り始めた。


すると次第に○○に呆れて嫌がらせを止めだすものやあたしを恐れて手を出さなくなるやつも出てきて○○は以前より絵を描くことに集中出来るようになっていった。


「あいつ...毎日こんなところまで来て紙とにらめっこしやがって、一体何やってんだ?」


木の影から○○を見下ろしていたあたしはある日ふと気になりとうとう姿をまた現してやることにした、○○は相変わらずヘラヘラとしていやがってあたしを恐れていない様子。


「あっ...やぁ、あの時の狐さんだよね?また会えた!」


なんで嬉しそうにしてやがんだこいつは、一時期とはいえあたしはお前の邪魔してたんだぞ、それに眼鏡も一度奪って今も謝ってないし。


「なんで嬉しそうにしてるのかって?それはそうだよ!だって君が俺を守ってくれてたんだろ?」

はっ...?あぁ!?なっ...!?なんでバレてんだよ!


「そうだね、あのね、ここら辺に百合の花とか、向日葵が咲き始めたこと知ってる?」

「は?いや、知らねぇけど...」

「そっか、あのね、ここら辺には最近まで向日葵とかの花は咲いてなかったんだ、でもほら!あそこに向日葵の花がいくつか咲いてるの見えるかい?」


○○が指差した先には向日葵の花がいくつか咲いている、だがあんな所に向日葵なんて咲いてたか?

「あの花ね、お化け向日葵なんだ」

「...は?」


お化け向日葵、ニッポン共和国で稀に見られる向日葵の形をした植物妖怪、長い間妖力に当てられたり、強い妖怪の妖力を浴びたりすると向日葵の種から成る妖怪、とはこの学校に来て調べてから分かった情報でこの時のあたしはこんな妖怪のことなんてほとんど知らなかった。


「お化け向日葵ってね、成る為に当てられた妖力の持ち主の影響を受けるらしくて、あの向日葵たちは俺の近くを妖怪が通ったり近づいてくる度に揺れて音を出して知らせてくれたり、その方向を向いたりしてくれるんだ」


知らなかった...獣が妖怪に成ることはあるが、植物も妖怪に成ることがあるなんて...例が少ないってことか。


「それだけじゃなくてね、ここからが重要なんだよ、花の色も妖力の持ち主の影響を受けるんだよ」


その言葉を聞いた瞬間、あのお化け向日葵の花の色が「白」と「赤」色の様々な模様の花が並んでいることに気がづいた瞬間、凄まじい羞恥の感情に支配された。

だって、あの色!かんっぜんにあたしの体毛と目尻の色と同じ!!


「他にもあそこに百合の花が咲いてるんだ、あれはこの山の霊力で早く開花したのかな、この近くのあちこちに花が咲いてるでしょ?」

そ、それがどうした!?


「君ってもしかして花が好きだったりするのかい?実は最近この山の妖怪たちが花の種を集めているって話を聞いたんだ、だから園芸屋で向日葵の種を買ってあげたら狐に渡すんだってだけ言われて、だからもしかして君なのかなって思ってさ」


黙れ黙れ!!もう黙ってくれお前!

「おっ前...!いいか!?勘違いすんなよ!?あたしはお前が暇つぶしにちょうど良かったから目をかけてやったんだ!だから変な勘違いすんなよ!?」


「えっ?勘違いってなにゅふのn4m46!?」

あたしは○○の目を、耳を、口を、周りの植物を操って塞いだ、本当に最悪だ、あたしは○○と友達になりたいだとか、好きだとか思っていない、いなかった、今までずっと隠れて来てたのに知らないところでバレるなんて!

「んー!!んんー!んーんんんー!」

あたしは拘束を解く勇気が湧くまで○○を縛り付けたまま放置した...

◇ ◇ ◇

「あ〜驚いた!君ってそんなことが出来るんだね!?凄いや!」

さっきまであたしにツルでぐるぐる巻きにされていたというにも関わらずこいつはやっぱりヘラヘラしている、なんなんだこいつは...調子が狂う...


「ねぇ!もっと君のことを教えて欲しいな、どうだい?どうかな?」

「うるせぇ、なんであたしが人間なんかに力を見せなきゃならねぇんだ、それよりお前があたしに色々情報吐きやがれ」

「えぇ?まぁいいよ、俺の名前は○○!年齢は○○!しゅみ...は...」

◇ ◇ ◇

「おい○○、なんでお前が描いてきた町の絵全部ボヤけてんだよ、特にこの辺り、わざとか?」

「え?あぁ、わざとというか...俺にはあの町がどうしてもボヤけて見えてるんだ」

「はぁ?○○、お前視力が落ちたのか?とうとう伊達メガネから本物に買い替えでもするのか?」

「ちょっと!?そういうんじゃな...」


あいつとの思い出にまるでテレビの砂嵐のようなノイズがかかっていく、それは日に日に強くなっていって昔1番記憶が鮮明だった頃に描いたあいつの似顔絵にポタポタと不安感という名の水滴を落としていきやがる。


そういえば人が死んだやつのことを忘れていくのは声からだとか聞いたことがある、あいつの顔や性格、名前とかの情報はあたしは今も性格に覚えているし、紙とか日記とかあらゆるものに十分すぎるくらいに残している。


でも...あいつの声だけはどうしてもあたしの頭の中の金庫以外どこにも残っていてはくれなかった、あいつの...○○の声を思い出す度にこの声は本当にあいつの声であっているのか途方もない不安感と恐怖に毎日駆られている。

あぁ...本当に...忌々しいクソったれな呪いだ...

◇ ◇ ◇

○○はとある有名な画家の息子だった、父子家庭で母は男を作って昔に家を出ていったと父から聞いたあいつは言っていた、それから○○は絵の才能を開花させて父のような立派な画家になれるように日々研鑽を重ねているらしい、夜なき山に来ていたのも風景の模写練習の為とのことだった。

でも、それはあたしの...いや、あたしたちの思い込みだった。

◇ ◇ ◇

「○○!これ鞄に何入ってんだ?あたしにも見せろ!」

「あっ、漫画が気になるのトウコちゃん?これは俺のおきにい...」

◇ ◇ ◇

○○のクソ親父は本当は立派な画家なんじゃなく○○を洗脳して描かせた絵を自分の作品として公開していた、○○は自分がそいつに搾取されていることも自覚出来ず、きっと毎日夜なき山に来ていたのも、あの絵に描いてあった町が、自宅の辺りがボヤけていたのは○○の無意識の抵抗なんだったと思う。


さらにクソなのはあいつが○○の実の親ですらなかったことだ、○○はあいつが赤子の頃に絵の才能を見出し○○の両親を殺害、そして自分の子供として育て信じ込ませていたということだ。


あたしはあいつを絶対に許さない...あいつはあたしたちに追い詰められた際、散り際に○○に呪いをかけて死んでいきやがった、そのおかげで...


「...トウコちゃん、俺...思い出したよ...本当は漫画家になりたかったんだ...本当は絵画を描くより息抜きで漫画を描いてみた時の方が楽しかったんだ...もう叶いそうにもないけど...いつか...トウコちゃんに俺が描いた漫画...見てもらえたら...よかったなぁ...」


○○にかけられた呪いは忘却の呪い、○○は世界から存在を忘れられ、名前も、人生も、一人で抱え込んでいた自覚出来なかった悩みも、全部、誰からも覚えてもらえず孤独な死を迎える。


本来は、でもあたしはその呪いに必死に抗ってなんとか○○のことを記憶に残している、ぶっちゃけ呪いが日を重ねる毎に強くなっていってる気がして似顔絵を「○○の似顔絵」と認識するのも辛くなってきた、ある日覚えのないそれをうっかり捨ててしまって泣きながらゴミ捨て場を漁って探し出した日もある。


だからあたしは漫画家になる、あいつが出来なかった分あたしが代わりに物語にして、どんな形でも世間様にあいつの生き様を見せつけて何としても世界にあいつの生きた証を残してやりてぇんだ、あたしの友達を忘れて欲しくねぇんだ、誰でもいい、誰でもいいから...○○を忘れないで...お願いだから...

◇ ◇ ◇

「...ってのがあたしの身の上だ、どうだ?分かったか?」

トウコは想像以上にヘビーな身の上をあたしたちにぶっ込んできた、話が思ったより長引いて外はもう暗くなってしまっている。


「トウコ...そんな...ことがあったなんて...ぐすっ...トウコも苦労してきたんだねぇ...!」

ルゥはトウコに感情移入してわんわんと泣きわめいてティッシュで涙を吹いている、ルゥもコンプレックスという種族、そして異端として産まれたが故に苦労してきたからトウコの苦しみを理解して寄り添えるんだろう。


「姐御〜!!うぐっ...なんっ...でっ!そんなこと俺たちに黙ってたんスかぁ〜!!そんなん辛すぎまスってぇ〜!!」

ティムもわんわんと泣きわめいてルゥとともに鼻をかみまくっている、ていうかあんた声うるさいわね、気持ちは分かるけどもうちょっとは抑えなさいよ、あんたを見たせいで冷静になってあたしの涙が引っ込んじゃったじゃないのよ。


「だって...言っても...」

「無駄なんかじゃないよ!辛かったんなら僕たちを頼ってよ!そりゃあ他所の家のことは僕分からないけど...それでもトウコが辛いのに支えられないのは僕嫌だよぉ!」

「俺もッスよ!いつも俺たちにズバズバと容赦ねぇこととか!歯に衣着せず思ったこと言ってくるくせになんでそういうことは言ってくれないの!?俺たちじゃ力になれねぇってこと!?ねぇ!」


2人とも...

「お前ら...おう、ありがとな」

トウコがまた笑った、今度は仮面じゃなくて少しでも心からの笑顔になってくれたのかしら...こんな時どうしたらいいか、どう声をかければいいのかが分からないのがもどかしいわ...

その時、ロミオが大きく話に踏み込んだ一言を発した。


「すまないがトウコ、今の話...所々違和感というか、おかしくなかっただろうか?」

「...へっ?」

「ふむ...まず○○とは誰なのだ?何故名前を消されている?口で名前を言っているのは分かるのだが私の耳には入ってこない、いや...認識出来ないんだ、これはどういう...?」


ロミオ...まさか貴方も!?

あたしはトウコの話を聞いている時に度々違和感を感じていた、トウコが○○と名前を言う度に頭にノイズがかかって名前を正しく認識することが出来ずにいた、さらに話が途中で飛んでた...いえ、これは...あたしの中の記憶が飛んでる...!?なんでよ!?


「え...ロミオ...お前○○の話覚えてんのか?あ、その顔から察するにお嬢も...?」

「あぁ、それに○○さんのお父上...いいや、この場合は誘拐犯だな」


当然じゃない、呪いだかなんだか知らないけど、上等よ、あたしから記憶を奪えるってんならやってみろっての!

でもルゥとティムの2人はあたしたちが何の話をしているのか本当に理解出来ないようでただ困惑している、あたしたちとルゥたちでなんの違いがあるっていうの...?


「誘拐犯の件にも違和感がある、何故王国騎士...いや警察は動いていないんだい?いや、動いたのだよな?それに何故絵画を書いていないことがバレていなかったんだい?いくつかボロが出そうなものだけども...あぁ...考えれば考えるほど頭がぼんやりしてくる...厄介だね...」

「警察は...動いてねぇよ、そもそも世間は○○の両親が死んだことすら知らない、それにあのクソ野郎がどうやってバレずにいたのかも分からねぇ...思い出そうとするとモヤるんだよちくしょう...」


ん?ちょっと待って?その2つは置いておいて、そもそもトウコはどうやって誘拐犯の正体を知ったの?それにどうやって倒したの?聞いた限りだと明らかに倒してるわよね?


「あぁん?それは...あれ、そもそもこの呪いはあいつのもんだったか...?なんかあいつは確か...力を借りてただけで...あぁクソっ!思い出せあたし!確か...確か...!そうだっ!「もう1人」!あそこにはもう1人誰かが居たんだ!クソっ!」


なんですって?まさか黒幕ってやつ!?

「ねぇみんな、何の話してるの?」

「あの〜?御三方?なんの話しをしているのか俺にはさっぱりなんですが...」

「はぁ〜仕方ないわね?じゃあ話すからあんたたち気合いで覚えなさい!」

「えっ?なにディアちゃん?怖いんだけど?」

その時、廊下の方から足音が聞こえてくる。

「っ!?(一同)」

あたしたちは慌てて部屋の電気を消してそれぞれ隠れる。


「ちょっ!?ロミオさん!もっと後ろに行って!」

ティムとロミオは掃除用具入れに慌てて入った、ロミオはデカイので立ちティムは小柄なのでしゃがみ体勢になっている...が、これはこれで色んな意味で、マズい。

「何を言っているんだいティム君!?これ以上は下がれないよ!狭いんだここは!」

「ちょっ!?もぅマッジでっ...!!」

「んっ?ティム君、何故頭を左に向け...あぁ...そういう...こんな状況で何変なことを考えているのかね君は...?」

「俺のせいッスか!?」


一方、扉の真横の死角、あたしとルゥが2人でしゃがみ込んで隠れる。

「んっ...?なんか急にロミオたちの様子を確認したい衝動に...」

「っ!?ディアちゃん!?ダメダメ!迂闊に動かないで!」

「キャッ!?ちょっとルゥ貴方どこ触って...!?」

「ギャァァァ!?ごめん変なところ触っちゃった!?僕ちゃんと責任と...」

「あ、ごめんなさい暗くて見えないから焦ったけど貴方が触ったの肩だったわ」

「え?」

「ところでさっきなにか言ったかしら?ごめんなさい、意識がこっちに向いて聞き逃してしまったわ...」

「ナンデモナイデス」


そしてまた一方で、化け術で置物に化けるトウコ。

「(何やってんだあのバカ4人は...!?)」

そしてドキドキしながら足音が通り過ぎるのを待つ5人...

「...(ゴクリッ)」

そして。

「...ホッ」

足音が通り過ぎて行ったのを確認して部屋の明かりをつけ直した。

「はぁ...お前らなぁ...隠れるのが下手すぎんだろ?特にお嬢!お前なに立ち上がろうとしてやがんだ?」

「...ハイ、スミマセンデシタ...」


「はぁはぁ...!!寮に戻ったら記憶消去魔法かけてもらわないと...!」

「ティム君...?私だって怒る時はあるんだよ...?」


「もぅ...ほんと怖かった...」

「私もですよぉ〜ルゥ氏〜!ソル子ォ〜超怖かったですぅ〜♡」

「うんうん、本当にびっくりした...よね...」

...

「こんばんは♡」

「ギャァァァァァァァァァ!?(×5)」

◇ ◇ ◇

そして学校の寮の屋根の上、虚ろな目をしながら校舎を見つめる黄金の手足をした悪魔風の少年が居た。

「...見つけたぁ〜♡♡トウコちゃ〜ん♡♡」

希望の学び舎に悪意が1つ...


to be continued




後書き

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