第3話「リグルディアお嬢様、再開する」
前書き
どうもシロニです、キャラクターの年齢はこんな感じです。
・リグルディア(13)
・ギデオン(13)
・トーマス(16)
・謎のコンプレックス君(12)
・ソル(不明)
・お淑やかな雰囲気の眼鏡が似合う巨乳女魔術教師(31、独身)
リグルディアたちが通う学園は「マーリン魔術学校」という魔術の英才教育を行う学校で年齢、種族問わず魔術の才能がある者の元に入学勧誘の手紙が届き、学びを共にしていますだってこの世界エルフとかいるからね、仕方ないね。
しかしある程度の年齢層で校舎や寮が別れています、もちろん寮は男女で。
この世界では現在貴族などは家名、つまり苗字を持ちますがギデオンなどの平民は苗字を持ちません。
今回から視点が変わります。
「前回のあらすじ」
なんだかんだで結局学校に来たリグルディア、お淑やかな淑女を振舞おうと努力するも虚しく結局最初からとある男の子に全部見られているのだった!
でもその子が耳を見られた途端急にうずくまり震えだして...
◇ ◇ ◇
目の前の男の子が顔を抑えて床にうずくまりガクガクと震えている、あたし何か怖がらせるようなことでもした?あ、まずい、段々と震えが酷くなってる!?
「え、ねぇちょっと!?貴方大丈夫!?あぁもう...!」
一体全体なんでこんなことになっているのか全然分かんないけど、あたしは彼の背中を優しく撫でながら、耳を見ないようにしつつ落ち着くように優しく声をかけた、というか今のあたしにはそれしか思いつかなかった。
「ほら深呼吸して、耳は見ないで欲しいのよね?あたし顔逸らしておくから、これで大丈夫でしょ?」
そうしていると彼は段々と呼吸が落ち着いてきて、落ち着きを取り戻すと耳が見えないようにフードで隠しつつもあたしに申し訳なさそうに謝ってきた。
「ご...ごめんなさい...」
「いいのよべつに、逆にあたしがなにか傷つけるようなことしたんじゃないかってドキドキしたくらいよ」
そう言うと彼は可愛らしくはにかんで。
「あら、笑った顔が可愛いじゃないの」
「っ!?あ、その...」
照れた彼はフードをさらにかぶり顔を隠してしまった、彼は相当な照れ屋さんなのかしら?
「さっきのことは特に踏み込んだりはしないわ、貴方に何かあったのかは知らないけど、土足でヅケヅケと踏み込むわけにはいかないもの」
そう、誰にだって踏み込んで欲しくない一線や、たとえ家族だとしても見せたくないものはある、それに下手に刺激したらまた震えだしちゃうかもしれないし...そうなったら可哀想だわ。
「お嬢様、あまりコンプレックス...彼にお近付きにならないように、あまり信用なりませんので...」
「ん...ソル、でもこの子きっと悪い子じゃないわよ、悪いなんて感じないわよ」
そうだ、この子には全く悪意が感じられない、むしろあたしのことを純粋に心配してくれるくらいだし...
「お嬢様のおっしゃる通りですが...コンプレックスは危険な害獣ですので...」
「...」
あぁもうソルの奴!もう少し言い方ってもんがあるでしょうが!
「ちょっとソル!あんた言い方!」
「おっと...申し訳ございませんでした、私リグルディアお嬢様の護衛でもあるためつい気を張ってしまい語気が強く...」
「そ、その...大丈夫です、みんながコンプレックスを嫌っているのは知ってますし、僕が異常なだけで警戒するのは当たり前...ですから」
コンプレックス...たしか本で読んだことがある、あたしのお父様の領地は畑が多いからコンプレックスの被害に遭ったという話も度々耳に入って来ている、たしか魔王が封印される前の時代に魔王軍に対抗すべく開発した生物兵器のキメラ、その失敗作。
結局魔王は勇者に封印されて、生物兵器として使われることは一度もなかったし、研究所の雑な管理で逃げ出した個体が野生化、そして数を増やし今では農地の畑や旅する冒険者たちが毎年多い被害を負うほど厄介で世界中から忌み嫌われている存在...だったはず。
名前もかつて数が多く、魔王が現れる前の世界大戦の火付け役ということで実験台にされたトールマン族と、肉体的に優れている獣人族たちのキメラであることから人類の負の遺産「コンプレックス」と呼ばれるようになった...
「異常?それってどういうことなの?」
あたしは彼のその言葉が気になった、異常というその言葉は一体どういう意味で使われたのだろうと、あたしはコンプレックス種を直接見るのは彼で初めてだから彼がどう異常なのかが分からない。
「...その、僕は...」
その時、彼の腹が盛大に鳴る。
「わっ!?えっと...」
それを皮切りに少し気まずかった空気が少し和らいで、あたしは自然となんだか笑がこぼれてしまい。
「あ〜そういえばあたしたちまだ何も食べてなかったわね、貴方もよね?」
「うん...」
彼は少し照れた顔をフードの奥に隠してしまう、彼は中々目を合わせることがなく、いや、人と話すのが苦手なんだろうか...あたしと似てる...
「そう、じゃああたしたちと一緒に食堂に行きましょ!」
「えっ?」
「それはいい考えですねぇ〜お嬢様、実は私も彼について興味を抱き始めていまして、ぜひ色々とお話を聞かせていただきたく♡」
「んえぇ...?」
「別にいいじゃない、それに...一応口封じの為でもあるのよこれは...」
そう、あたしは彼に醜態の徹頭徹尾を見られてしまっている、1食奢るくらいて黙っていてくれるなら安い、それに彼は口が堅そうだし。
「ん...分かり...ました」
「そう!それなら早速行きましょ!ところで貴方お名前は?」
「えっと、僕の名前はルゥ、リグルディアさんと同じクラスで、年は12歳」
「え、同じクラス!?」
「うん...ずっと前から居たよ」
「その...全く意識してなかったというか、忘れてたというか」
「えぇお嬢様〜ご学友相手にそれは酷すぎませんかぁ〜?」
「なっ!?うるっさ...いや、確かに忘れてたあたしが悪いけど...!」
「...ふふっ」
ルゥはあたしとソルのやり取りに笑い、ここでやっとしっかりあたしの目を見るようになってくれて何やら考え出した。
「まったく...ん、なによ?どうかした?」
「えっと...リグルディアさんって素はこんな人だったんだなって」
「ん?」
ん?それどういう意味よ。
「気づいてなかったんですかお嬢様?口調も一人称も完全に素になっていますよ」
「っ!?え!は!?」
気が付かなかった!焦っていたから...?いや、別に特に焦ってはいなかったはず...一体どうして...
「ちょ、ちょっと!こ、これはその違いましてよ!普段はもっとお淑やかなはずでして!こんなそこらの町娘のような口調では!」
「手遅れですよお嬢様」
「〜!!」
完全にルゥに素がバレてしまった...しかし何故だか彼に対しては素がバレても仕方ないと思っている自分がいる、というかあの耳...ルゥという名前に聞き覚えがあるような...?
「いかがなさいましたかお嬢様?急に立ち止まられて?」
「え、あっ...なんでもないわ!」
あたしは今は考えるのを後回しにした。
◇ ◇ ◇
あたしたちは食堂につきそれぞれ食べたいものを注文して料理がテーブルに運ばれてくるのを待つ、その間ルゥのお腹は急かすかのようになり続けていて。
「うぅ...恥ずかしい...」
「コンプレックスの食欲凄いですねぇ〜」
そして少し待つと料理が盛り付けられた皿の数々がキッチンから宙を舞ってあたしたちのテーブルへと到着する。
「これよこれ、この匂いが好きなのよあたしは」
あたしは好物の双頭グリフォンのもも肉ステーキを注文した、暴風の谷と呼ばれるダンジョンに生息する双頭グリフォンのもも肉は、柔らかくも噛みごたえがあり丸1日漬けられていた特製ダレの味がよく染み込んでいて美味い。
「うーん、なんだか最近あまり辛さを感じなくなってきましたねぇ...また慣れてきてしまったのでしょうか、面倒ですねぇ」
ソルはテリテリサバンナに稀に生えているというとても辛い唐辛子を使ったパスタを上手にフォークでクルクル巻いて食べていた、こいつ食事にまで刺激を求めてるの...?
「モグモグ...ンン〜♡♡」
ルゥはというと様々な肉料理と申し訳程度のサラダをとても美味しそうに頬張っている、食べることが好きなんだなとその様子から感じ取れるほど気持ちのいい食べっぷりだ。
「あ、あの...こんなこというのもあれなんですけど...おかわりって大丈夫ですか...?」
こ、こいつ、意外と足元見てくるタイプだったのね。
「えぇ、大丈夫よ」
「...っ!ありがとうございます!」
なんで貴方がお礼を言うのよ、一応これは口封じのためであって...
「えへへ〜次は何を頼もうかなぁ〜!」
ルゥは各テーブルに備え付けられているメニュー表の料理の写真を指で軽くタップしていく、すると魔道具であるメニュー表からキッチンへと注文が送られ料理が作られていくのだ。
「ちょっと、そんなに頼んであんた食べられるの?」
「大丈夫ですよ!僕こう見えて結構食べるタイプなんです!」
「一体その小柄な体格のどこにそんなに入る胃袋があるんでしょうか...それとも消化能力が強いのか...」
次々に運ばれてきた料理をルゥはとても美味しそうにその胃袋に納めていく、その旺盛な食欲はコンプレックス特有のものなのか、それともルゥ自身の個性なのかはあたしにはちょっとまだ分からない。
「...ん」
ルゥのことを見ていると、あたしはふとまた何かを思い出しそうになっていた。
「ん?お嬢様、いかがなさいましたか?」
「その...よく分かんないけど昔のことを何か思い出しそうで...」
でもどうしてもよく思い出すことが出来ない、何かきっかけが足りないと思う...ピースの残り1つが見当たらないようで...すごくモヤモヤするのが気持ち悪い。
そして食事が終わるとともに昼休みの時間も終わり、あたしたちは午後の授業を受けに大運動場へと向かう、しかし。
「ルゥ...コンプレックス...何か、何か思い出せそうなんだけど...過去にあたし...彼と会ったことがある...?」
あたしは忘れている何かを思い出す、思い出さなくてはいけない、そう感じながら必死にモヤモヤしながら考えている。
「どうかしたの?リグルディアさん」
「えっと...ねぇルゥ、ちょっと変なことを聞くけどもしかしてあたしたちって昔どこかで会ってたりする?」
「えっ...」
その言葉にルゥが足を止めて固まる、あたしはまた何か彼のトラウマでも刺激してしまったのだろうか。
「その、貴方とはなんだか初めてあった気がしないというか、ねぇ?」
すると、ルゥは恐る恐るながらも、確かめるように口を開き言葉を発した。
「も、もしかしてリグルディアさん...えっと...ディアちゃん、あの時のことまだ覚えてるの...?」
「ん?ディアちゃん?なんで貴方がお父様の私の呼び名を知ってるのよ...」
その時、やっと最後のピースを見つけ一気にモヤモヤが晴れ幼い頃の記憶を鮮明に思い出していく、ろくなことがなかった幼少期、その中でも僅かながらに確かにあった、かけがえのなかった楽しい記憶。
「あっ...あたし...なんで...こんなこと忘れて...たの...?」
あたしは、今目の前に立っている「幼なじみ」のルゥを、たった数日だけであったが確かに絆を結んだ大切だったはずの相手のことを、ようやく思い出した。
to be continued
後書き
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