バキラ対オクトパスター
「……」
海が静かになる。凪が呆然と海中を見つめる。
「た、大海……」
「い、今の内に撤退だ!」
疾風司令が声を上げる。
「! パパ!」
凪が疾風司令を睨み付ける。
「は、疾風司令だ!」
「大海、紅蓮隊員の安否を確認する必要があります!」
凪が海をビシっと指差す。
「ぐ、紅蓮隊員のことは気になるが、まさかバキラを引き上げるわけにはいくまい! 今回はあくまでも調査目的だ!」
「この艦は潜水も出来ます! バキラを追いかけましょう!」
「バ、バカなことを言うな! 正気か⁉」
「正気ですとも!」
「海中でバキラが再び動き出したらどうする!」
「むっ……」
「ここは撤退一択だ! 全隊員の安全を優先する必要がある!」
「しかし……」
「しかしもかかしもない!」
「ぐっ……」
凪が唇を噛みしめ、拳をぎゅっと握って、顔を俯かせる。疾風司令は再び声を上げる。
「そ、それでは撤退するぞ!」
「シュル!」
「なにっ⁉」
「ええっ⁉」
海域から離れようとした艦船が再び大きく揺れる。吸盤が無数につき、先端がハサミの形をした長い赤紫色の触手が艦船に絡みついたからである。
「シュルル!」
赤紫色の触手の持ち主が海面上に顔を覗かせる。黒いふたつの目玉と、尖った口が印象的な巨大生物である。凪が首を傾げる。
「こ、こいつは……?」
「ロブスターとタコのハイブリッド、『オクトパスター』だ!」
「えっ! た、確かそいつは伊豆諸島近海あたりが縄張りじゃ……」
「連中が差し向けたんだろう! 日本政府が!」
疾風司令が大きな声で忌々し気に叫ぶ。凪が唖然とする。
「そ、そんなことが……」
「連中ならば可能だ! 『日本は世界に名だたる怪獣国家である』というのが口癖みたいなものだからな! 日本にばかりやたらめったら現れる怪獣どもを逆手にとって、防衛の手段にするとは! まったく、神をも恐れぬ奴らだよ!」
「シュル……」
オクトパスターが大きな力で艦船を自らの方に引き寄せる。疾風司令が舌打ちする。
「ちっ、反政府組織の俺たちを生け捕りにするつもりか⁉」
「に、逃げないと!」
「こ、この力には抗えん!」
「ガアアアッ!」
「⁉」
バキラが海中からもの凄い雄叫びとともに姿を現す。
「バ、バキラ⁉」
凪が自らの両耳を抑えながらバキラを確認する。疾風司令が顔をしかめる。
「くそっ、前門の虎、後門の狼か!」
「ガアッ!」
「シュル⁉」
「えっ⁉」
凪が驚く。バキラがオクトパスターの触手に噛みついたからである。
「ガアッ‼」
「シュルル⁉」
バキラがオクトパスターの触手を噛み千切る。オクトパスタ―はたまらず後退する。
「ガアアッ!」
「シュル‼」
体勢を立て直したオクトパスターが別の触手をバキラに向かって伸ばす。すると、バキラは口を大きく開き、真っ赤な光を吐き出す。
「ガアアアアッ‼」
「シュルルル⁉」
バキラの口から放たれた光を食らい、オクトパスターは体の一部を損傷する。オクトパスターは慌てた様子で振り返り、海中に潜って、猛スピードで遠ざかっていく。
「ガア! ……」
「え……ええええっ⁉」
凪はさらに驚く。バキラが突如姿を消したかと思うと、艦船のブリッジに全裸の紅蓮大海が仁王立ちしていたからである。大海はニヤリと笑みを浮かべながら声を上げる。
「なんだかよく分からねえけど、怪獣と一体化したみたいだぜ……これならきっと日本を取り戻せる……俺たちの故郷に帰れるんだ!」
大怪獣バキラ 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji
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