バキラ出現

「怪獣か!」

 疾風司令が声を上げる。

「か、怪獣⁉ それってに置かれているんじゃ……?」

「今回の海底火山噴火によって、新たに目覚めた可能性がある……!」

「そ、そんなことが……」

「あいつは……この小笠原諸島近海に伝わる怪獣、『バキラ』だ!」

 疾風司令は内ポケットから取り出したタブレット端末を手際よく操作して、新たに出現した怪獣の正体を素早く導き出す。

「バ、バキラ……」

「ガア……」

 バキラが視線を艦船に向ける。疾風司令と凪の父娘は慌てる。

「マ、マズい!」

「こ、攻撃を!」

「今回は調査目的だ、戦闘準備はしていない! 知っているだろう!」

「ガアア……」

 バキラが大きな口をこれでもかと開く。口の奥から光が見える。凪が目を細める。

「えっ、なに?」

「た、退艦準備だ!」

 疾風司令が凪の腕を引っ張る。

「ど、どこに逃げろと言うんです!」

「まあまあ、落ち着きなって!」

「! 大海⁉」

 一機のヘリコプターがバキラと艦船の間に割って入る。この緊迫した状況には到底似つかわしくない、底抜けに明るい声が周囲に響く。

「この俺、紅蓮大海ぐれんたいかいが戻ってきたのならもう安心だ!」

「ぐ、紅蓮隊員! 調査から戻ってきたのか!」

「司令! こんな時になんですが、凪、いえ、娘さんとのお付き合いを認めて頂いても……」

「こ、この窮地を脱したら考えてやる!」

「よっしゃ、言いましたね!」

「馬鹿じゃないの、二人とも! そんなヘリコプターでなにが出来るのよ!」

「なんとかしてみせるさ! うおおっ!」

「ガアッ!」

「! 大海―――!」

 紅蓮大海の操縦するヘリコプターがバキラの口の中に勢いよく突っこみ、消失する。バキラは口の中だけでなく、眼の光も失って、海中に沈む。凪の叫びがこだまする。

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