第4話

彼を相手に冷静さを欠いては負けなのだ。



窓際に配置されたピアノに手を起きながら彼の紡ぐ音に耳を傾ける。



弾き終わった彼の瞳はいつもより少し、年相応なあどけなさを取り戻しているようだった。



拍手をするのが逆に失礼に思えてくるような独特の空気感。



私はそっと呟くように問いかける。



「…ここからだとよく見えるわね、あの塾」



窓の外、ここから近くはあらずとも遠くもない所に例の事件が起きた塾校舎が見える。



住宅地に囲まれた新築のその校舎の隣には小さな古い建造の図書館があって、新旧の対比が浮いている。






爆発は決して大規模ではなかった。



死者も重傷者もおらず、校舎の一部屋が多少損傷したくらいのもの。



しかし塾講師1人と女子生徒1人が火傷を負った。



女子生徒は今目の前に座る彼のクラスメイトだった。






「…君はあの日の前夜あの塾校舎の周辺をうろついているところを近所の人に見られているのよ」



この一週間私はこの言葉を何度も彼に言った。

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