第3話

「君と静かに話せるように今日は吹奏楽部の活動は休みにしてもらったの」



「……」



彼はなにも答えなかったけれど、「ああ、そう」とその目が言っているようではあった。



私は彼にピアノの前へ座るよう誘導する。



「どうぞ?」



あくまで強制っぽくならない言い方を意識しつつ。



逆らうことなく無言で腰掛ける彼に一曲何か弾いてとお願いした。



彼はもう一つ、ピアノという才能を持つ。



これは幼い頃から習わされていたもので、中学卒業と同時に習い事はやめてしまったようだ。



しかし今こうして鍵盤の上を踊る指先にブランクは感じられない。



それは彼が今も頻繁に弾き続けていることを証明していた。



「いつも吹奏楽部が部活を終えて帰った後、ここで一人で弾いているんでしょう?」



「……」



「夕方殆ど生徒のいない校舎で君を見かけている先生もいるし、音楽室から流れるピアノの音を聞いてる先生もいるの」



「……弾いてますけど?」



だからなんだと言わんばかりのしれっとした表情だ。

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