第10話

「聞いた河合くん、"お前ら"だって」



ちょっと嬉しそうに笑う河合くんにつられて私も笑う。


椎の演奏を邪魔するように続けて質問を重ねた。



「椎はさ、まだ酒向さんのこと好き?」



「…大好きだけど?」



「聞いた河合くん、"大好き"なんだってー」



「お前ら海に突き落とすぞ」




暮れていく空。


明るくもない暗くもない中途半端な紅と紺の間は白かった。



散歩中の犬の鳴き声がする。


自転車のチリンチリンと鳴る音。


地面に置いた手を滑らすとジャリっと砂が擦れた。



ここにいる3人が正体の分からない、ぼんやりとした憂鬱や焦燥のような何かに駆られているようで。




それから帰ろうと立ち上がるまで誰も口を開かず、椎の指先だけがずっとメロディーを奏でていた。

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