第8話

小さく笑う河合くんと顔を合わせて私は肩をすくめた。



「椎は酒向さん以外の女の子の前では弾きたくないんだって」



「言ってねぇよ。言ってねぇしあいつは関係ねぇよ」



「分かってる分かってる。酒向さん大好きだもんね」



「両目潰すぞお前」



「椎よ、失恋を癒すには新しい恋だよ、椎くんよ」



「なに急に林怖い」



「私が付き合ってあげようか」



「はぁ?」



冗談で言った言葉はちゃんと椎にも伝わっている。



くだらないとばかりにため息を吐いた椎をにやにやしながら眺めていると、私を睨んで逸らした椎の視線が一瞬止まった。



その視線を追って振り返った先に河合くん。



地面に視線を落とした河合くんはそのやる瀬ない瞳で真っ直ぐ海を見つめて。



私と椎の視線に気づくと青年はちょっと慌てたように苦笑して誤魔化す。



「…ふぅん」



なにやら納得したような椎が背後に置いてあるアコギに手を伸ばした。

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