第5話

椎は普段澄ました顔してクールぶってるくせにちょっとからかうとすぐに反応するし、返しの悪口がちょいちょい小学生染みてたりする。



そのくせ他人に変な先入観を持ったりだとか不要な気遣いをしたりなんかしない。真っ直ぐな人だと思った。



「実はね、私酒向さんからこの前相談を受けてね、椎にバレンタインのチョコあげるべきなのかなーって」



「…ふぅん」



「でもフッちゃった側としてはわざわざ義理チョコ渡すのはふてぶてしいかな、とかそもそも椎甘いもの嫌いだったらどうしようか、とかすごい悩んでたよ?」



「……俺は別に、」



「酒向さん今年は手作りするんだってー私も友チョコ貰うことなったんだー。でも椎はやっぱ貰いたくないのかなー」



「……」



「まぁ、今一番ぎくしゃくしてる時期だしね、貰っても困るよねー?」



「……俺別に甘いもの嫌いじゃないしって、…酒向に言っといて」



語尾が消え入りそうになるその声に思わず口角が上がる。


ちょっとからかい過ぎたかも。



教室の一番後ろで黙々とホウキを持つ手を動かす河合くんにふと目をやると、彼の背後にある黒板に『素直に欲しいって言えよ』と書かれたさり気ない彼の主張が目に入った。



「別にこれと言って欲しいとか言っ…欲しくねぇよ!」



河合くんにツッコんで椎は脱力するようにしゃがみ込むと真っ赤な顔を伏せ隠したから、


河合くんと視線を合わせて息の音も立てず笑った。

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