第3話

「…河合くんは部活とか入らないの?」



この静かな無言の空間はいつものことで、馴れると居心地が悪く感じたりだとか、気まずくなることはなかった。



河合くんは一瞬ホウキを動かす手を止めて、両手をそのホウキの先に組むように乗せると考えるようにぼんやり空を見つめる。



「私は帰宅部かな、運動とか苦手だし」



ぽつりと付け加えて彼の方に視線をやるとふうんとでも言いた気な表情。



彼は何を言うこともなかったけどなんとなく、その顔だけで何を思っているかは察することができた。



高校に入ってから河合くんは"大人"になったけど、

それ以上に全てに投げやりになった。ような気がする。



「林と河合じゃん」



静寂に支配された教室に突如クリアな声が響く。



両手をポケットに突っ込んで前屈みの体勢でひょっこり教室の中を覗き込む青年と目が合った。



「あれ椎、なにしてんの」



声をかけると椎は小さく頷いて中に入って来る。



「ギターのピック、忘れたから」



自分の机の中から取りに来た忘れ物を取り出すとポケットに入れてすぐさま教室を出て行こうとして。



「いい雰囲気のところお邪魔しました」



半ば茶化すような言葉を置いて行く。

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