第4話


 その日の夜、ネーリは夜勤に出る前に倉庫に立ち寄ったフェルディナントから、再び警邏隊が襲撃されたことを知った。最近夜勤はあまりなかったのに、連日増えて来たから、何かあったのだろうかと聞いたのだ。するとまた事件があったから、集中的に捜査していると教えられた。また、あの『矢』が使われたから、同一犯の可能性が高いとフェルディナントは言った。

 ネーリの表情がサッと曇ったことが分かり、絵を描く手を止め、フェリックスに寄りかかり、少しの休憩を取っていたネーリの頭を優しく撫でてやる。

「……心配しなくていい。必ず犯人は捕まえる」

 フェルディナントの声に気遣う気配を感じ取り、ネーリは小さく頷いた。その様子を見て、こんな出掛けに話さなければよかったとフェルディナントは後悔した。不安そうだ。

しばらく襲撃事件は無かったから、徐々に安心していたのだろうと思う。

 また続いたら、また、街が不穏な空気になる。

「そんな不安そうな顔をするな。……必ず俺が守ってやるから」

 腰をかがめ、ネーリの身体を抱き寄せた。彼も腕を回して来てくれる。

「うん。ありがとう……フレディも気を付けてね、みんなも……」

「俺たちは大丈夫だよ」

 安心させるように、フェルディナントは笑いかける。それから側の毛布をもう一枚、ネーリの身体に掛けた。

「フェリックス。ネーリを頼むぞ」

 首をこっちに向かせた愛竜の額を押さえると、クゥ、と声が返った。

 フェルディナントが扉を閉め、出て行った。


 また襲撃事件が起きた。

 同じ矢が使われたとフェルディナントが言っていた。

 ネーリは自分の自動弓【フィッカー】を城に侵入した時、海の中で無くした。

 つまり、使われたのは別の【フィッカー】である。

(やっぱり……あの武器を使う人が、ヴェネトに……ヴェネツィアにもう一人いるんだ)

 自分以外に。

 その人も、自分と同じように警邏隊を狙ってる。

 でも何でなのか、分からない。

『彼』が誰なのかも。

 寒さを感じ、毛布を肩まで上げると、フェリックスが首を大きく曲げて、とぐろを巻くような体勢になった。すぐ側に顔があり、金の瞳をぴかぴかさせている。竜は胴も温かいが、首のあたりも温かい。冷たい空気が遮られて、ネーリは微笑った。

「あったかい。……ありがとう、フェリックス」

 目を閉じる。

 数時間、少し眠ろう……。



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