第2話

毎週火曜日の放課後。


僕はいつもやんわりと友だちの誘いを断って


静かな教室にぽつんと一人、

机に体を預けるようにして待つ。



外はまだ明るくて、

遥か遠くの方だけ少し空が赤かった。




この待ち時間は、いつも思い出すんだ。



分厚い眼鏡のレンズの向こう、

長く伸びた黒い前髪の向こうに見えた

中学時代の彼女を。



彼女は僕と目が合う度笑った。



それは決して友好的な笑みなんかじゃなく、

どこか蔑んだ、馬鹿にしたような表情だった。




「……安藤くん?」



入口に目を向けると彼女が立っていて、

少し躊躇がちにこちらを覗き込んでいる。


中学のときよりもずっと長く伸ばした

彼女の髪がさらりと揺れた。



高校に上がった今、

毎週火曜日の放課後に彼女は僕に会いに来る。



「…入っといでよ、松下さん」






僕の中にあるルール。




『僕は彼女に、

かつて彼女が僕に向けていたような笑顔を贈る』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る