第13話

人がいなくなって、

体育館から聞えていたボールの跳ねる音もなく、

寂しくなった渡り廊下に2人、さっきのくり返し。



「…井上さん寒くない?」



「寒い」



「風邪引いちゃうよ」



でもそういう赤松くんの額は汗でびっしょりで、

こんな低温度の中、先に風邪を引いてしまうとしたらそれは絶対赤松くんの方だ。



「……部活、頑張ってるんだね」



試合に出してもらえなくなっても。



「好きだからね、バスケ」



ひたむきな人だと思った。

ちゃんと自分の周りのもの全てと向き合っていて。



どうして目標がある人は、

大抵自分がそれに向かって"頑張ってる"ことに無自覚なんだろう。



なんとなく、許されると思って。

彼の額の汗を拭うように手の甲を当てた。



赤松くんは私を見据えたまま大人しく動かない。





手を離した瞬間だった。


一瞬の速度で気づいたのは数秒後。






前のめりになった赤松くんの唇が

自分の唇に触れて静止した。


近付いた彼の頬から部活の名残、熱気を感じた。

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