第12話

今のこの鼓動はそれとは少し違う。



例えば悩みも楽しみもないのに

早朝の4時に目が覚めたときのような。


意味がない。




意味がないんだ。















「……井上さん?」



長かったような、短かったような。


ゾロゾロと運動部員たちが体育館を出て渡り廊下を歩き、私の目の前を通り過ぎていく。



明らかに不思議そうな目で見られていたのは分かったので、顔を伏せたまま動けないでいると、

やっぱり赤松くんは私を呼んでくれた。



「……ずっとここにいたの?」



「……」



顔を伏せたまま頷くと、上の方から聞えた赤松くんの声がすぐ目の前で発せられた。



「……俺を待ってたの?」



「…たぶん」



「たぶんなんだ?」



さっきと同じように私の目の前でしゃがんだ赤松くんが少し困ったように笑う。

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