第6話

「え、あ、はい」



たどたどしい手つきで楽器を手に持って、そっと撫ぜるように触れる青年。




「すげー、思ってたより軽い」



「赤松くん、部活はいいの?」



「たぶんダメ」



「…じゃぁ、行きましょうよ」



「うん、井上さんが廊下の隅っこでうずくまっててなんか面白かったから」



はい、とビオラを私に手渡して赤松くんは一瞬動きを止めた。



「井上さんこそここでなにしてんの?」



「自主練習ですよ」



「廊下で?」



「オーケストラ部員は人数が多いので全員が全員音楽室での練習は不可能なのです」



「へぇー…寒くない?廊下」



「寒い」



「だよね」



ふはっと息を吐くように笑う青年こそ、真冬の餌食になりそうな薄着だ。



「体育館もおんなじくらい寒いよ」



目の前に自分と同じ体制でしゃがみ込む青年の短めの黒い髪をわしゃわしゃと触りたくなった。


…実際に手を伸ばすまでの勇気はないけれど。



「赤松くんバスケ部のどこのポジションだっけ?」



「フォワード」



「……へぇ」



「あんまり分かってないでしょ?」



「うん、ごめん」

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