Untitled 2
第5話
「ひぃぃ…っ」
小さく上げた悲鳴は冷たい廊下に吸収されるように消えた。
思わず手にしていた楽器を落としそうになって、また小さな悲鳴が口から飛び出る。
今手にあるスプルースの滑らかな弦楽器を地面にぶちまければ十万円単位の弁償、慌てて手に力を込めなおした。
冬の寒い時期、温度に敏感なその楽器の弦は
ふとした瞬間突然にバチンと切れて。
3年間触っているとはいえ、
この弦が切れる瞬間の迫力は未だに慣れない。
反射的に体はへなへなと廊下の端にしゃがみ込んだ。
「……我が家にこれを弁償する経済的余裕はない…っ」
「そのバイオリン、高いの?」
背後で声がして、振り向くと"部活中です"と言わんばかりの格好の赤松くんがそこに。
「…バイオリンじゃないです。ビオラです」
「違いが分かんないや」
「……大きさ?」
「なんで井上さんが聞くの」
「…あと、音?」
「へぇー」
一本の弦が切れてびろんびろんと飛び出た不格好なビオラを赤松くんはしげしげと見つめる。
私の目の前まで歩み寄ると同じようにしゃがみ込んだ。
「持ってみていい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます